秘めやかなる初恋 〜姉の許嫁に捧ぐ淡雪〜
第7章:遥斗の告白
悠真の優しい視線が雪菜の心を揺さぶる一方で、西園寺遥斗からのアプローチは、より明確な形となって雪菜に迫っていた。遥斗は、雪菜が悠真への想いを抱いていることには気づいていない。ただひたすらに、目の前の雪菜の心を射止めようと、誠実で情熱的な好意を伝え続けていた。
ある日の夕方、会社での仕事を終え、雪菜が退社しようとすると、遥斗が待ち構えていたように彼女の前に現れた。
「片桐さん、今日、少しだけ僕に時間をいただけませんか?」
その声は、いつもよりずっと真剣で、雪菜は彼の表情を見て、何か特別なことがあるのだと直感した。
「あの…西園寺君」
「お願いです。どこか静かなところで、少しだけ話したいんです」
遥斗の瞳は、これまでにないほど真剣な光を宿していた。雪菜は、彼の決意のようなものに気圧され、断ることができなかった。
二人は、会社の近くにある、こじんまりとした公園のベンチに腰を下ろした。夕暮れ時で、空は深い藍色に染まり始め、街灯がぽつりぽつりと灯り始める。
「片桐さん」
遥斗は、ゆっくりと口を開いた。
「以前も少しお話しましたが、僕は片桐さんのことが、本当に好きなんです。」
はっきりと、飾り気のない言葉。雪菜の心臓が大きく脈打った。
「片桐さんの、あの控えめなのに芯の通ったところ。いつも周りに気を使い優しい所。そして、時々見せる、はにかんだ笑顔も、全部」
遥斗は、雪菜の目を真っ直ぐに見つめながら、一言一言、丁寧に言葉を紡いだ。
「僕は、片桐さんの隣にいたい。あなたを守りたい。そして、あなたを、誰よりも幸せにしたいと、心から願っています」
その言葉は、情熱的でありながらも、決して強引ではなかった。遥斗の真剣な想いが、公園の静かな空気に溶け込み、雪菜の心に深く響く。彼の瞳は、揺るぎない決意に溢れている。
「もし、片桐さんに今、好きな人がいるとしても、それでも構いません。僕は、あなたへの気持ちを、これ以上抑えることはできません。どうか…僕と、真剣にお付き合いをしていただけませんか?」
遥斗は、雪菜の手を取り、そっとその温もりを伝えた。彼の掌は、温かく、雪菜の手を包み込むように優しかった。
雪菜は、彼の真っ直ぐな告白に、どう答えていいか分からなかった。遙斗の誠実な人柄は理解しているし、彼の好意が嬉しいという気持ちも、確かにあった。しかし、雪菜の心の中には、一条悠真という存在が、あまりにも大きく根を張っていた。
「西園寺君…」
雪菜は、やっとのことで声を絞り出した。
「私…あなたの気持ちは、とても嬉しいです。本当に。でも…」
遥斗は、雪菜の言葉を遮らず、静かに待っていた。
「私には…まだ、誰ともお付き合いをする気持ちになれないとしか…今は、お答えできません」
雪菜は、正直にそう告げることしかできなかった。悠真への想いを直接口に出すことはできない。しかし、遥斗の誠実さを前に、曖昧な返事で誤魔化すこともしたくなかった。
遥斗の顔に、一瞬だけ寂しさがよぎったが、すぐに彼は笑顔を作った。
「そうですか…。分かりました。でも、僕は諦めません」
彼の瞳は、それでも諦めない、という強い意志が見えた。
「僕は、片桐さんのことが、本当に好きなんです。だから、片桐さんが心の整理がつくまで、いくらでも待ちます。片桐さんが、少しでも僕の気持ちがわかってくれるまで、ずっと、あなたのことを待ちます。」
遥斗は、雪菜の手をもう一度ぎゅっと握りしめ、そしてそっと離した。その手の温もりだけが、雪菜の掌に残った。
公園のベンチを離れ、二人は別々の方向へ歩き出した。遥斗の背中が、街の灯の中に消えていくのを、雪菜は立ち尽くして見送った。
彼の純粋で熱い告白は、雪菜の心を激しく揺さぶった。このまま、遥斗の優しさに甘え、悠真への想いを断ち切るべきなのだろうか。しかし、心はまだ、悠真を諦めることを拒んでいた。
姉の婚約者なのに。
帰り道、雪菜は一人、夜空を見上げた。
街の光に隠されて、星はほとんど見えない。
この空の下で、悠真もまた、どこかで夜空を見上げているのだろうか。
雪菜の心は、激しい葛藤と、罪悪感と、そして微かな希望の間で、激しく揺れ動いていた。
遥斗の告白は、雪菜に、本当の気持ちと向き合うことを強く願っていた。
ある日の夕方、会社での仕事を終え、雪菜が退社しようとすると、遥斗が待ち構えていたように彼女の前に現れた。
「片桐さん、今日、少しだけ僕に時間をいただけませんか?」
その声は、いつもよりずっと真剣で、雪菜は彼の表情を見て、何か特別なことがあるのだと直感した。
「あの…西園寺君」
「お願いです。どこか静かなところで、少しだけ話したいんです」
遥斗の瞳は、これまでにないほど真剣な光を宿していた。雪菜は、彼の決意のようなものに気圧され、断ることができなかった。
二人は、会社の近くにある、こじんまりとした公園のベンチに腰を下ろした。夕暮れ時で、空は深い藍色に染まり始め、街灯がぽつりぽつりと灯り始める。
「片桐さん」
遥斗は、ゆっくりと口を開いた。
「以前も少しお話しましたが、僕は片桐さんのことが、本当に好きなんです。」
はっきりと、飾り気のない言葉。雪菜の心臓が大きく脈打った。
「片桐さんの、あの控えめなのに芯の通ったところ。いつも周りに気を使い優しい所。そして、時々見せる、はにかんだ笑顔も、全部」
遥斗は、雪菜の目を真っ直ぐに見つめながら、一言一言、丁寧に言葉を紡いだ。
「僕は、片桐さんの隣にいたい。あなたを守りたい。そして、あなたを、誰よりも幸せにしたいと、心から願っています」
その言葉は、情熱的でありながらも、決して強引ではなかった。遥斗の真剣な想いが、公園の静かな空気に溶け込み、雪菜の心に深く響く。彼の瞳は、揺るぎない決意に溢れている。
「もし、片桐さんに今、好きな人がいるとしても、それでも構いません。僕は、あなたへの気持ちを、これ以上抑えることはできません。どうか…僕と、真剣にお付き合いをしていただけませんか?」
遥斗は、雪菜の手を取り、そっとその温もりを伝えた。彼の掌は、温かく、雪菜の手を包み込むように優しかった。
雪菜は、彼の真っ直ぐな告白に、どう答えていいか分からなかった。遙斗の誠実な人柄は理解しているし、彼の好意が嬉しいという気持ちも、確かにあった。しかし、雪菜の心の中には、一条悠真という存在が、あまりにも大きく根を張っていた。
「西園寺君…」
雪菜は、やっとのことで声を絞り出した。
「私…あなたの気持ちは、とても嬉しいです。本当に。でも…」
遥斗は、雪菜の言葉を遮らず、静かに待っていた。
「私には…まだ、誰ともお付き合いをする気持ちになれないとしか…今は、お答えできません」
雪菜は、正直にそう告げることしかできなかった。悠真への想いを直接口に出すことはできない。しかし、遥斗の誠実さを前に、曖昧な返事で誤魔化すこともしたくなかった。
遥斗の顔に、一瞬だけ寂しさがよぎったが、すぐに彼は笑顔を作った。
「そうですか…。分かりました。でも、僕は諦めません」
彼の瞳は、それでも諦めない、という強い意志が見えた。
「僕は、片桐さんのことが、本当に好きなんです。だから、片桐さんが心の整理がつくまで、いくらでも待ちます。片桐さんが、少しでも僕の気持ちがわかってくれるまで、ずっと、あなたのことを待ちます。」
遥斗は、雪菜の手をもう一度ぎゅっと握りしめ、そしてそっと離した。その手の温もりだけが、雪菜の掌に残った。
公園のベンチを離れ、二人は別々の方向へ歩き出した。遥斗の背中が、街の灯の中に消えていくのを、雪菜は立ち尽くして見送った。
彼の純粋で熱い告白は、雪菜の心を激しく揺さぶった。このまま、遥斗の優しさに甘え、悠真への想いを断ち切るべきなのだろうか。しかし、心はまだ、悠真を諦めることを拒んでいた。
姉の婚約者なのに。
帰り道、雪菜は一人、夜空を見上げた。
街の光に隠されて、星はほとんど見えない。
この空の下で、悠真もまた、どこかで夜空を見上げているのだろうか。
雪菜の心は、激しい葛藤と、罪悪感と、そして微かな希望の間で、激しく揺れ動いていた。
遥斗の告白は、雪菜に、本当の気持ちと向き合うことを強く願っていた。