秘めやかなる初恋 〜姉の許嫁に捧ぐ淡雪〜
第8章:罪悪感と期待
遥斗からの真剣な告白は、雪菜の心に深い波紋を広げた。彼の真っ直ぐな想いは温かく、それを受け止めることができない自分への罪悪感が、じわじわと胸を蝕んでいく。同時に、悠真が時折見せる優しい視線と、遥斗からの求愛という、二つの異なる感情の挟間で、雪菜の心は激しく揺れ動いていた。
その夜、雪菜は自室の窓辺に座り、月明かりに照らされる庭園をぼんやりと眺めていた。煌々と輝く月は、雪菜の心を照らし出すように、隠していた感情を浮き彫りにする。
「私…ずるい」
ぽつりと呟いた言葉は、月光に吸い込まれるように消えていった。
遥斗は、何の曇りもない純粋な好意を向けてくれている。その気持ちに応えることができないのは、雪菜の心の中が、悠真という存在で心が埋め尽くされているから。
しかし、その悠真は、姉の許嫁。志穂の愛する人。その事実が、雪菜の心を罪悪感で重くする。
もし、遥斗の告白を受け入れれば、この苦しい片思いから解放されるのかもしれない。
遥斗はきっと、私を大切にしてくれるだろう。彼の隣で、新しい幸せを見つけることができるかもしれない。そんな考えが頭をよぎるたびに、雪菜の胸には、もう一人の自分が「違う」と叫んでいた。
悠真への想いは、もはや「憧れ」という言葉では片付けられないほど、雪菜の心の奥深くに根付いていた。彼の優しい声、穏やかな笑顔、そして時折見せる、憂いを帯びたような視線。それら全てが、雪菜の心を捕らえて離さない。
特に、最近の悠真の変化が、雪菜の心をかき乱していた。
「無理しなくていい。君は、嘘をつくのが苦手だからね」
「何かあったのか?顔色が良くないように見えるが」
「君は繊細だから…」
彼の言葉は、まるで雪菜の心の奥底に眠る感情を、そっと撫でるようだった。
志穂でさえ気づかないような雪菜の小さな変化に、悠真は気づいてくれる。それは、ただの「姉の妹」に対する優しさなのだろうか。それとも、彼の中にも、自分と同じように、何か特別な感情が芽生え始めているのだろうか。
そんな微かな「期待」が、雪菜の心を締め付ける罪悪感に、わずかながらも光を差す。
もし、悠真も同じ気持ちだったら。
もし、彼も私を…
そんな禁断の想像が、雪菜の心を激しく揺さぶった。
しかし、その期待はすぐに罪悪感へと転じる。
志穂は、悠真を心から愛している。二人は、いずれ結婚し、幸せな家庭を築くはずだ。その未来を、私が壊してしまっていいのだろうか。
姉の幸せを願うべき妹が、その幸せを奪おうとしている。
なんて、醜い感情だろう。
雪菜は、自分の頬に触れた。熱いものが、じんわりと広がっていく。
「お姉様…ごめんなさい」
声にならない謝罪が、胸の奥でこだました。
時計の針は、すでに深夜を回っていた。眠りにつくことを拒むかのように、雪菜の思考は堂々巡りを続ける。
遥斗からの真剣な告白を、これ以上曖昧なままにしておくことはできない。
そして、悠真へのこの想いを、このまま秘めておくことも、もう限界に近づいているのかもしれない。
一体、自分はどうすればいいのだろう。
どちらを選んでも、誰かを傷つけることになる。
自分の心に従うことは、果たして正しいのだろうか。
雪菜は、薄暗い部屋の中で、ただ一人、深く息を吐いた。
彼女の心は、罪悪感と、ほんのわずかな希望の光の間で、激しく揺れ動く淡雪のように、行く先を見失っていた。
その夜、雪菜は自室の窓辺に座り、月明かりに照らされる庭園をぼんやりと眺めていた。煌々と輝く月は、雪菜の心を照らし出すように、隠していた感情を浮き彫りにする。
「私…ずるい」
ぽつりと呟いた言葉は、月光に吸い込まれるように消えていった。
遥斗は、何の曇りもない純粋な好意を向けてくれている。その気持ちに応えることができないのは、雪菜の心の中が、悠真という存在で心が埋め尽くされているから。
しかし、その悠真は、姉の許嫁。志穂の愛する人。その事実が、雪菜の心を罪悪感で重くする。
もし、遥斗の告白を受け入れれば、この苦しい片思いから解放されるのかもしれない。
遥斗はきっと、私を大切にしてくれるだろう。彼の隣で、新しい幸せを見つけることができるかもしれない。そんな考えが頭をよぎるたびに、雪菜の胸には、もう一人の自分が「違う」と叫んでいた。
悠真への想いは、もはや「憧れ」という言葉では片付けられないほど、雪菜の心の奥深くに根付いていた。彼の優しい声、穏やかな笑顔、そして時折見せる、憂いを帯びたような視線。それら全てが、雪菜の心を捕らえて離さない。
特に、最近の悠真の変化が、雪菜の心をかき乱していた。
「無理しなくていい。君は、嘘をつくのが苦手だからね」
「何かあったのか?顔色が良くないように見えるが」
「君は繊細だから…」
彼の言葉は、まるで雪菜の心の奥底に眠る感情を、そっと撫でるようだった。
志穂でさえ気づかないような雪菜の小さな変化に、悠真は気づいてくれる。それは、ただの「姉の妹」に対する優しさなのだろうか。それとも、彼の中にも、自分と同じように、何か特別な感情が芽生え始めているのだろうか。
そんな微かな「期待」が、雪菜の心を締め付ける罪悪感に、わずかながらも光を差す。
もし、悠真も同じ気持ちだったら。
もし、彼も私を…
そんな禁断の想像が、雪菜の心を激しく揺さぶった。
しかし、その期待はすぐに罪悪感へと転じる。
志穂は、悠真を心から愛している。二人は、いずれ結婚し、幸せな家庭を築くはずだ。その未来を、私が壊してしまっていいのだろうか。
姉の幸せを願うべき妹が、その幸せを奪おうとしている。
なんて、醜い感情だろう。
雪菜は、自分の頬に触れた。熱いものが、じんわりと広がっていく。
「お姉様…ごめんなさい」
声にならない謝罪が、胸の奥でこだました。
時計の針は、すでに深夜を回っていた。眠りにつくことを拒むかのように、雪菜の思考は堂々巡りを続ける。
遥斗からの真剣な告白を、これ以上曖昧なままにしておくことはできない。
そして、悠真へのこの想いを、このまま秘めておくことも、もう限界に近づいているのかもしれない。
一体、自分はどうすればいいのだろう。
どちらを選んでも、誰かを傷つけることになる。
自分の心に従うことは、果たして正しいのだろうか。
雪菜は、薄暗い部屋の中で、ただ一人、深く息を吐いた。
彼女の心は、罪悪感と、ほんのわずかな希望の光の間で、激しく揺れ動く淡雪のように、行く先を見失っていた。