ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
トレードマークの薄い微笑みでも、私といるときに覗かせる悪戯めいた笑みでもなく、今の彼の顔に浮かんでいるのは非常に爽やかな笑みだ。
瑞々しさすら感じる。遠巻きに眺めているせいで視線がずれ、別人を見ているのでは、と錯覚を抱きそうになるくらいだ。
ところどころで談笑や名刺交換が始まり、会場内の喧騒が高まっていく。
沓澤代理が隣にいない状態で誰かに声をかけられるのは少々心許ない。このような場だけに、ただ頭を下げて挨拶すれば良いというものでもないだろう。
特に、社長は今回の招待について『沓澤家との縁が大きい』と言っていた。なら、なおさら出すぎた真似や礼を欠いた対応は避けたい。
口をつける気のないグラスを手に、そそくさと壁側へ移動する。沓澤代理はまだ長谷川社長と談笑を続けている。さっき見た笑顔のままだ。
喧騒の中、私の思考はやがてあの残業の夜に辿り着き、無意識のうちに額に指を伸ばす。
あの日のキスなんてなかったかのように毎日が過ぎていて、彼も私もそれまで通りだ。もしかして夢だったのではと思うほど、あの夜だけがなかったことに――空白になっている。
そんな状態で今日のこれだ。本当なら社長夫妻が出席するはずだった大事な席に、ふたりで出席している。
瑞々しさすら感じる。遠巻きに眺めているせいで視線がずれ、別人を見ているのでは、と錯覚を抱きそうになるくらいだ。
ところどころで談笑や名刺交換が始まり、会場内の喧騒が高まっていく。
沓澤代理が隣にいない状態で誰かに声をかけられるのは少々心許ない。このような場だけに、ただ頭を下げて挨拶すれば良いというものでもないだろう。
特に、社長は今回の招待について『沓澤家との縁が大きい』と言っていた。なら、なおさら出すぎた真似や礼を欠いた対応は避けたい。
口をつける気のないグラスを手に、そそくさと壁側へ移動する。沓澤代理はまだ長谷川社長と談笑を続けている。さっき見た笑顔のままだ。
喧騒の中、私の思考はやがてあの残業の夜に辿り着き、無意識のうちに額に指を伸ばす。
あの日のキスなんてなかったかのように毎日が過ぎていて、彼も私もそれまで通りだ。もしかして夢だったのではと思うほど、あの夜だけがなかったことに――空白になっている。
そんな状態で今日のこれだ。本当なら社長夫妻が出席するはずだった大事な席に、ふたりで出席している。