ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 生きる世界が違っても、本質はなにも変わらない。
 けれどそれ自体が難しいのだと、いまさらながらに思い知る。

 立場の違い。身分の違い。生きる世界の違い。社内でのやり取りを繰り返すだけなら、不安も抵抗もなにも感じなかった。でも。

 玉の輿なんて、私には到底狙えそうにない。
 卑屈な意味ではなく、彼らが背負っているものや、背負っているゆえの苦悩を、分かち合ったり分け合ったり――そんな想像をうまく働かせられないという、それがすべてだ。

『全然伝わってないじゃない』

 菅野さんの呆れ声を思い出す。私ではなく、沓澤課長に向けられた呆れ。
 沓澤課長は、なんのために菅野さんにあの嘘をついたのか。私を嫌がらせや中傷から守りたいなら、私を手放してくれればいい。沓澤課長が好きな私は、そうされたら絶対に傷つくけれど、生殺しに等しい優しさを与えられ続けるよりはずっとましだ。でも。

 ……いい加減、帰ろう。
 溜息をついたら、中途半端に揺れる自分の中のなにもかもが、そのままガラガラと崩れ落ちてしまいそうだった。

 開きかけた口を強引に閉じ、私は帰路に就いた。
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