ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 ただ、沓澤代理は一点、重大な問題を看過ごされていらっしゃる。
 女性陣の鋭い視線は、結局、沓澤代理ではなく私に向くのだ。

 今のところ、攻撃的な言葉をぶつけられたり嫌がらせをされたりといった露骨なトラブルはない。
 けれど、この先ずっと大丈夫だという保証もない。
 だから、同じ本社内で頼りにできる果歩に相談しても良いと言われたことは、私にとっては救い以外の何物でもない。

 許可が下りた翌日、私は早々に果歩に事情を説明することにした。
 どちらも残業の予定がなかったから、タイムカードを押した後に社内で待ち合わせをして、一緒に近くのカフェに向かう。

 果歩はすでに噂を知っていた。
 まさかと思い、そろそろ直接話を聞こうと考えていたらしい。

「ええっ、恋人のフリ!?」
「そうなの。あと果歩ちゃん、もうちょっと声、抑えてください。付き合ってないことが噂になっても困るらしいので」
「な、なんじゃそりゃ!」

 話についていけないとばかり、果歩はオーバー気味に頭を抱えた。
 大袈裟だなぁと笑いつつ、私はアイスコーヒーをひと口啜る。雄平と別れて以降、フリーを満喫する気満々だった私を果歩は知っているわけで、その反応は分からないでもない。
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