ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 途中で地図アプリを起動させ、沓澤代理の自宅を目指す。
 ひとり暮らしだったのか、と改めて思う。メモに書かれた住所には、集合住宅と思しき固有名詞と部屋番号が記されている。

 社長や社長夫人と一緒に暮らしてはいないのかと考え、それはそうかとすぐに思い直した。もしそうなら、社長が私にこんな頼みごとをするはずはない。
 突然部屋に押しかけられたら沓澤代理だって困るだろう。社長はどこまで彼に事情を伝えているのか。そう思ってから、そういえばこの端末には彼の連絡先が入っているのだったなと気づいた。

 他人の端末を勝手にいじる長い指を思い返し、ついつい苛立ちながらも電話をかける。
 無機質な呼出音は途切れない。応じてはもらえないようだ。コールがふた桁に達したところで諦めた。

 今度はメッセージを入れる。
 こちらは早々に既読マークがついた。端末の確認はしているらしい。

『もうすぐ着きます』

 わざと馴れ馴れしく、かつ焦らせるような文面にした。
 日頃さんざん私を面倒ごとに巻き込んでいる彼へ、このくらいのささやかな仕返しは許されてもいい。
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