ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
 名前、呼ばれたかと思った。
 しかも、ゆず、ちょうだいとか、やめてよ。

 危なすぎる。危うく誤解するところだった。
 顔が赤くなった自覚はある。蓋にかかる指が異様に震えてしまっていることも分かっていた。

「どうした?」

 訝しむような問いかけに、返事はできなかった。
 ビニールの個包装に包まれた飴を三個、沓澤代理の手の中へ無理やり押し込む。

「わた、私はこれで、失礼、します!」

 いっそ、なにも言わずに立ち去ったほうがよほど自然だったのでは。
 心の中だけで頭を抱えながら、私はくるりと踵を返し、逃げるようにアパートの階段を駆け下りた。
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