ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
     *


 遅れてしまった事務業務は、沓澤代理が残って手伝ってくれた。
 上役の意見を毛嫌いしていた三浦さんが、席を立ってから私に向けてきた視線には、ミーティング中に見せていた挑戦的な気配はもう宿っていなかった。それどころか申し訳なさそうな感じさえ覗いた気がして、なんだか意外だった。

 日報の残りの入力箇所を埋め、確認してもらう。
 プリントアウトの前にチェックを入れる沓澤代理は、パソコンから視線を外さないまま、器用に口を動かし始めた。

「さっきは助かった。三浦がかなり頑固だったけど、自分より若手のあんたの意見がアレだったからだろうな、目が覚めたみたいな顔してた。これで多少は折れてくれるかな」
「す、すみません。出しゃばったような物言いになってしまった気が」
「いや、あのくらい言ってくれ。事務だからって遠慮する必要はないし、逆にそれだと困る。本当はミーティング、あんたにも最初から参加してもらうつもりだったけど、三浦がえらい強気だったからあのタイミングにしただけだし」
「は?」

 座る沓澤代理の隣に立ち、私は素っ頓狂な声をあげてしまう。
 返す言葉が見つからず黙っていると、沓澤代理はキーボードを操作しながら淡々と続ける。
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