ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「あ、はい。もう仕上がっていまして、先ほど課長に承認をお願いしました」
「早いですね。ありがとう、助かります」
定時を十五分ほど過ぎた頃、帰り支度をしていると、沓澤課長代理に声をかけられた。
前日に頼まれていた仕事について問う彼の声は、良く言えば冷静沈着、やや尖った言い方をすれば平坦だ。
沓澤奏。
二十代後半――確か二十九歳だと小耳に挟んでいる――とは思えない落ち着いた物腰と、部下や新人が相手であっても崩れない丁寧な口調が彼のトレードマークだ。そしてそれらこそ、今感じたばかりの平坦な印象に拍車をかけている。
異動直後こそ緊張を覚えた。けれど、一年と少し一緒に仕事をしてきてだいぶ慣れた。
今では、彼の言葉遣いが雑だったら、そちらのほうがよほどなにかあったのかと身構えてしまう。
「では、お先に失礼します。お疲れ様でした」
「お疲れ様。気をつけて」
淡く微笑みながら定型の挨拶をした後、沓澤代理は、言葉の最後と同時にデスクへ視線を戻した。
社交辞令じみた薄い微笑みにだけは、いまだに緊張を覚えてしまう。なまじ整った顔をしている分、どことなく怒っているように見えなくもないからだ。
「早いですね。ありがとう、助かります」
定時を十五分ほど過ぎた頃、帰り支度をしていると、沓澤課長代理に声をかけられた。
前日に頼まれていた仕事について問う彼の声は、良く言えば冷静沈着、やや尖った言い方をすれば平坦だ。
沓澤奏。
二十代後半――確か二十九歳だと小耳に挟んでいる――とは思えない落ち着いた物腰と、部下や新人が相手であっても崩れない丁寧な口調が彼のトレードマークだ。そしてそれらこそ、今感じたばかりの平坦な印象に拍車をかけている。
異動直後こそ緊張を覚えた。けれど、一年と少し一緒に仕事をしてきてだいぶ慣れた。
今では、彼の言葉遣いが雑だったら、そちらのほうがよほどなにかあったのかと身構えてしまう。
「では、お先に失礼します。お疲れ様でした」
「お疲れ様。気をつけて」
淡く微笑みながら定型の挨拶をした後、沓澤代理は、言葉の最後と同時にデスクへ視線を戻した。
社交辞令じみた薄い微笑みにだけは、いまだに緊張を覚えてしまう。なまじ整った顔をしている分、どことなく怒っているように見えなくもないからだ。