ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
動けない。
動けない理由が分からない。分からないうちに、視界が陰る。
それくらい近いと、唇、当たっちゃう――そう思った瞬間、やわらかな感触がそこを走った。
目を閉じる暇はなかった。
やわらかなそれが、近づいてきたときと同じくゆっくり離れていく。開きっぱなしの私の目に、熱っぽいような冷めているような、どちらともつかない沓澤代理の視線が近距離から絡む。
「……抵抗しない理由って訊いてもいいか」
機能を忘れた耳に、低い声が刺さる。
絡んだ視線に逃げ場を失った私の、金縛りのごとく固まっていた身体が、魔法が解けたかのように動き始める。
「し、失礼します……ッ!」
掴まれた腕を振り払うと、それもまた、思ったよりも簡単にほどけた。
残業を始める前にロッカールームから持ってきていたバッグを、ひったくるようにして手に取る。
手が震えて、なかなかうまく取っ手を握れなくて、もどかしくて堪らなかった。
他愛もない雰囲気は、すでに一片も残っていない。
真っ赤に染まっているだろう自分の顔を隠すこともできずじまいで、私はその場から走り去った。
動けない理由が分からない。分からないうちに、視界が陰る。
それくらい近いと、唇、当たっちゃう――そう思った瞬間、やわらかな感触がそこを走った。
目を閉じる暇はなかった。
やわらかなそれが、近づいてきたときと同じくゆっくり離れていく。開きっぱなしの私の目に、熱っぽいような冷めているような、どちらともつかない沓澤代理の視線が近距離から絡む。
「……抵抗しない理由って訊いてもいいか」
機能を忘れた耳に、低い声が刺さる。
絡んだ視線に逃げ場を失った私の、金縛りのごとく固まっていた身体が、魔法が解けたかのように動き始める。
「し、失礼します……ッ!」
掴まれた腕を振り払うと、それもまた、思ったよりも簡単にほどけた。
残業を始める前にロッカールームから持ってきていたバッグを、ひったくるようにして手に取る。
手が震えて、なかなかうまく取っ手を握れなくて、もどかしくて堪らなかった。
他愛もない雰囲気は、すでに一片も残っていない。
真っ赤に染まっているだろう自分の顔を隠すこともできずじまいで、私はその場から走り去った。