ビタースイート・ドロップ~次期社長の甘い嘘~
「今日はええと、いちごとバターと……柚子はちみつ、です」

 書類を届けた日以来、柚子はちみつ味はラインナップから外せなくなった。
 自分の行動が馬鹿らしく思えて、けれど確かにワクワクした感じもあって、結局いつもワクワクのほうに身を委ねてしまう。

「んー、じゃあゆず」

 からかい交じりの呼び方に、今日こそは言い返してやりたくなる。
 この人は、おそらく私の下の名前が〝ゆず〟だと気づいていない。知ったら一体どんな顔をするのかと思いつつ、固まりかけた口元をなんとか動かす。

「その言い方やめてもらえませんか。ちゃんと柚子はちみつって言ってくださ……」
「違う」

 言えたと思ったのに、最後までは言えなかった。
 私の声を掻き消すように否定の言葉が続いた気がして、そうと思い至ったときには腕を緩く引かれた後。

「え?」

 椅子の上でバランスを崩した私の身体は重心がずれ、大きく傾ぐ。
 体勢を立て直そうと思うよりも早く、ゆっくりと沓澤代理の顔が近づいてくる。
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