各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
「ひどいな。全然そんなことないのに」

 私は首を左右に振った。

「いえ、実際その通りなんです。仕事を理由にデートの誘いを断る女なんて、かわいはずありません」

 自分で口にしながら、じわじわと実感が湧いてきた。ずっと気にしないようにしていたけれど、まるでボディブローのように慎士の言葉が私の内側を侵食していく。
 膝の上のスカートを両手でギュッと握りしめたら、手の甲に大きな手が重ねられた。ピクッと肩が跳ねる。

「実花子はかわいいよ」

 柔らかな声に心臓がトクンと波打った。それを消すように急いでかぶりを振る。

「慰めてくださらなくても大丈夫です。自分のことは自分が一番よくわかっていますから」 

 そうよ。人には向き不向きがある。女子力の低い私は、仕事に生きる方がいいのだ。仕事なら私に〝かわいげ〟や〝料理のセンス〟を求めたりしない。

「いや、実花子は全然わかってない」

 あまりにはっきりと断言され、驚きに目をしばたたく。

 OJT研修の三カ月間があるとはいえ、五年ぶりに戻ってきて数か月一緒に働いただけの上司に、私の何がわかるというのだろう。

「そんなに気を使っていただかなくても――」

 言いながら顔を上げたら、真剣な瞳と視線がぶつかった。言いかけた言葉をのみ込む。

「仕事に対していつも真剣で一生懸命。困難にぶつかっても簡単に気持ちが折れたりしないし、逆にそれを打破しようとする前向きな強さがある」

 そんなふうに仕事中の私を評価してもらえていたなんて。
 新人時代とキャリアを積んだ今の自分のどちらも知る彼に、そういうふうに言ってもらえるなんて、これまで一生懸命頑張ってきてよかった。
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