各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
 恥ずかしい勘違いが確定されて、ひとりで勝手に気まずくなった。視線をさまよわせていると、「観覧車は嫌い?」と問われる。

「いえ、そういうわけでは――」
「それともやっぱりあっちの方がよかった?」

 課長が振り返る。視線の先には、さっき通りすぎたホテルがあった。

 バレてた……!

 慌てて大きくかぶりを振った。

「観覧車っ……私、観覧車に乗りたかったんです! 観覧車に乗りましょう!」

 さっきまでとは逆に、私が彼の手を引きながら観覧車に乗り込んだ。
 向かいの席で尊さんが肩を揺らしながら笑いをこらえている。

「からかったんですね……」

 恨みがましい目つきで見ると、「ごめんごめん」と笑いながら謝られた。私はむくれたまま外を見る。地上を離れたばかりのゴンドラが、ゆっくりと空に向かって昇っていく。

 私が黙っていると彼もなにも言わない。
 お互いの足が当たるほど狭い密室で、しかも地上から数メートル上。逃げ場すらないこの狭い箱の中で、無言のまま十五分以上を過ごすなんて耐えられない。

 そもそもここに来た理由は、園田嬢を気にせず話をするためだ。

「恋人……いえ、〝元〟恋人にあの電話で振られたんです」

 出し抜けに切りだした私に、尊さんは静かにうなずいた。その様子から、やはり彼はわかっていたのだと確信する。

「理由は『がんばってますアピールがうざい』『気が利かなくてかわいくない』『料理がド下手』らしいです」

 あまりに情けなくて苦笑いを浮かべたら、尊さんが顔をしかめる。
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