各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
 園田さんと呼ばれた女性は、一瞬唇を噛みしめてから必死の様子で口を開く。

「で、でもっ、恋愛と結婚は別と言いますでしょう⁉ 『園華堂(えんかどう)』常務の娘である私との結婚は、出世に有利になるんですよ? 各務さんもそのつもりがあったからお見合いに来てくださったのでしょう⁉」

 ここでようやく彼女が私達の会社と取引のある文具店関係者だとわかった。

 そんな大物とのお見合いをこんなふうに断っても大丈夫なの?

 不安になってちらりと隣を見ると、課長はフッと息を吐くように笑って「まさか」と言う。

「今回のお見合いは、お世話になった上司の顔を立てるために行っただけです。部長も『顔を出すだけでいい』とおっしゃっていましたので」

 ああ、なるほど。課長がお見合いを断わりたいと思っていたところに、タイミングよく私がいた、というわけだ。

 状況が把握できたおかげで、少し冷静になってきた。
 さすが未来の幹部候補。帰国とほぼ同時にお見合いが舞い込んでくるなんて、将来への期待値が高すぎる。でもそれはそれで大変だろうな――なんて余計なお世話だろうけど。
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