大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。

「起きた?」

 低い声がして、私はビクッと肩を震わせた。
 もちろん穂高だ。

「……穂高も起きてたの?」
「千紘がずっと俺の胸をぎゅって痛いくらい抱きしめてたからね」
「ごめん。痛かったなら言ってよ、もう……!」

 慌てて腕を離そうとすると、穂高が手首を優しくつかんで、腕をすっと元の位置に引き戻した。

「違うよ、嬉しかったんだ。もう少しこのままでいてよ」

 その言葉に胸がじんとして、私はもう一度、彼に回した腕に力を入れた。

 お礼するように、ちゅ、と軽いキスが額に落ちる。

 そういえば、と私は思い出し、口を開いた。

「でもさ……プロポーズくらい、二人きりの時にしたかったな。恥ずかしすぎるってば」
「あれでよかったんだよ。いや、あれが一番よかった」
「なんで?」
「周りにも知っててほしかった。俺がどれだけ千紘を好きかってのもだけど……千紘がどれだけ俺を好きかも。これから部署を離れるし、余計にな」
「……そういう理由?」
「そういう理由だよ。これからも長いんだ」

 そう言って穂高が、まるでいたずらを成功させた子どもみたいに笑う。
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