大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。

「千紘さ〜ん! おはようございます〜!」

 いちばん聞きたくなかった声が明るく響く。

「……おはよ」

 笑えなかった。
 美晴さんの横を通り抜けようとしたその時、ふわりと香水の香りが鼻先をかすめた。

 これ、昨日、匡輔がつけて帰ってきた香り。
 今までは彼女はこの匂いじゃなかった。

 わざわざわかるような匂いをつけて、私に自分の存在を知らせたくなったのだろうか?
 独特なむせるような甘さに顔を顰めた。

 頭がおかしくなりそうだ。
 エレベーターホールに向かって歩いていると、背後から聞こえてきた話し声が耳に刺さった。

「昨日のデート、彼氏とまたうちですっごく盛り上がっちゃってぇ……!」

 美晴さんが、もう一人の受付の女性に楽しそうに話している。
 内容は理解できるのに、意味が脳に入ってこない。思考が、頭も、ぐらぐら揺れる。

 私は、いつも通りを装ったままエレベーターに乗り込み、ボタンを押した。
 しかし八階に着いた瞬間、急に胃が反応した。

「っ……!」

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