大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。

 それから、離婚について、具体的にどう準備していけばいいかを本気で考えはじめた頃だった。

 瑞穂さんから「ちょっと食事に行かない?」と誘われたのだ。
 私はむしろ話をしたいと思っていたところだったので、迷わずうなずいた。

 食事の席で、私は集めた証拠を差し出した。
 写真、メッセージ、レシート、ホテルの利用履歴……。

 瑞穂さんは最初の数枚を見た瞬間、しかめ面をし、フォークを置いた。

「……最悪。こんな奴、人として終わってるわ」

 吐き捨てるような声。
 その表情は、驚くほど冷たくて、私はその顔を見ただけで、胸の奥がスッと軽くなるのを感じた。

(この状況はおかしいんだ。私が弱いとか、耐えられないとかじゃなくて、普通に最悪なんだよね……)

 一人で証拠と向きあってると、『自分がこうしていればもっと違ったのだろうか』と自分が悪いのでは? という思考に陥ることも多かった。
 でも違うと思える瞬間にどれだけ救われるか。

 瑞穂さんは息を吸って私を見つめる。

「で、『千紘さん本人は』どうしたい? 自分の希望は考えた?」
「……離婚したいです。慰謝料はなくてもいいので、とにかく――」

「何言ってるのよ!」

 ピシャリと割り込まれる。

「がっちり取らなきゃ! 当たり前の権利なのよ! それに請求しないと、ああいう人間は絶対繰り返すわ。あなたが我慢すると、次の誰かが同じ目に遭うだけよ」
「……はい」

「よかったら私に弁護士を紹介させて。女性で、腕は折り紙付き。話はしてあるから即日動いてくれると思うわ」

 即断即決のその感じが、ありがたかった。
 私が先生の名前と連絡先をメモしている間にも、瑞穂さんはスマホで連絡をつけてくれていて、打ち合わせの日時までサクッと決めてくれた。

「『羽柴法律事務所』。担当は副所長の羽柴あかり先生。ご夫婦であかり先生のお父さまの事務所を継いでるの。優しくて強い先生だから大丈夫」
「ありがとうございます……」

 さらに、「そういえばこれ。離婚を決めるなら見せようと思ってた。絶対役に立つから」と瑞穂さんが見せてくれたのは、美晴さんのSNSだ。

 そこには、匡輔と分かるような匂わせどころか、もはや証拠写真と言えるツーショット、デート先、ホテルの外観まで。
 不倫相手という立場を考えれば致命的なレベルの投稿がいくつもあった。

 胃の奥が痛んだけど、瑞穂さんの「こんなに証拠残して慰謝料とってください、って言ってるようなものよね。馬鹿よねぇ」という明るい笑い声に救われた。
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