隣の席の君に恋をした。地味な私を好きにならないでよ、朝倉くん

第6話 胸が痛む気持ちを、嫉妬って言うんだ

文化祭準備が本格的になって
 教室は毎日わいわいしていた。

「春野、これ見て。昨日の続き描いてきた」

「わ…朝倉くん、すごい…!」

「いや、春野が軸描いてくれたおかげだろ?」

 隣で笑う彼の声が、自然に耳に入ってくるようになった。

 だけど
 その日、胸の奥に違う痛みが走った。

「朝倉くん、ちょっといい?」

 明るい声でそう言って近づいてきたのは
 クラスの人気者・美咲だった。

 サラサラの髪
 長いまつげ
 誰が見てもかわいい、完璧美少女

「あ、うん。どうした?」

「文化祭の進行のことで相談があってさ。ちょっと来てくれない?」

「いいよ」

 何気ない会話
 何気ない動き

 でも
 なぜか胸の奥にチクリと小さな痛みが走った。

 ふたりが並んで教室を出ていく
 美咲が楽しそうに笑う
 朝倉くんも、いつもの自然な笑顔を返す

 当たり前だ
 朝倉くんは誰にでも優しい

 ……分かってる
 分かってるのに

 ノートの上に目を落として
 ペンを握りしめた手が少し震えた

「紬、大丈夫?」

 いつの間にか茜が隣に座っていた。

「なんでもないよ」

「なんでもない顔じゃない」

「……」

「もしかしてさ。嫉妬した?」

「し、嫉妬なんて…」

 否定しようとしたのに
 声が少し震えた

「紬。あんた、分かりやすいんだから」

「違うよ。ただ…ただ気になっただけ」

「それ嫉妬って言うんだよ」

 茜は小さく笑って、わたしの頭をぽんと軽く叩いた。

 そうなのかな
 わたし、嫉妬してるのかな

 胸がぎゅってして
 苦しくて
 落ち着かなくて

 こんなの初めてだ

 しばらくして
 朝倉くんが戻ってきた。

「春野、待たせた。ごめん」

「い、いいよ。別に待ってないし」

「そっか? なんか元気ないように見えたけど」

「そんなこと…ないよ」

 自分でも驚くくらい
 ぎこちない声が出た

「……春野?」

 朝倉くんが心配そうに身を屈めて
 わたしの顔を覗き込む

 その距離に心臓が跳ねたけれど
 さっき見た光景が甦って
 うまく笑えなかった

「ほんとに大丈夫だから」

「……そっか」

 彼が少しだけ寂しそうな顔をしたのを見て
 胸がさらに痛くなった

 きっと、わたし
 本当に嫉妬してる

 そう気づいた途端
 顔が熱くなって、目をそらすしかできなかった

 その日の帰り
 廊下で肩が触れた瞬間

「春野。なんかあったら言えよ」

「……うん」

「俺、春野のこと…放っておかないからさ」

 その言葉が
 痛みの中に静かに落ちて
 胸の奥にあたたかさを広げていった
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