青空の下でまた虹を見よう。

数ヶ月前の私

「ちょっと、いつまで寝てるのー!」

「、うーん、わかってる、、」

声は聞こえる、なんとか返事も出来る。だけど、どうしても身体を起こせない。頭がはっきりしない。気を抜いたらまた意識が遠のきそうだ。午前中は特に身体が重い。世界が私にだけ重くなっているのではないか。ついそんな有り得ない事を考えてしまう。


私は起立性調節障害だ。



私はある日から突然、全然起きられなくなった。

こんな風になったことはなかったため、
確実にどこかがおかしくなったのだと、大きな病院で様々の考えられる病気の検査をした。

しかし私の考えとは裏腹に体に異常は見つからなかった。

「心療内科の紹介状出しますね。」

そんな事を言われて私は、循環器内科の診察室をあとにした。



心療内科では、あなたは起立性調節障害だと言う。
「すぐに治る病気でも、効果的な薬もないので、気長に病気に向き合って行きましょう。」
そんなことを言われた。

私はすぐに言葉を続ける。
「あの気長にってどのくらいですか。学校があって、単位がやばいんです。出来ればすぐ今まで通りに戻りたいんですけど、。」

少し困ったような顔で医者は言う。
「今まで通りの生活が出来るようになるまで、
3、4年くらいはかかると考えてください。」


私は今度は噛み付くように言葉を続ける。
「それじゃ困ります、!」


うーん、と渋る医者。


私はなんとか、血圧をあげる薬と漢方と血液検査で少し不足していたビタミン剤を処方してもらい帰路につく。


家に着いてすぐどうだった?と聞いてくれたお母さんに医者から言われたことを伝え、薬を貰えたからこれからはもう大丈夫だと伝えた。

お母さんは安堵の表情で、これでまた学校行けるね、良かったね、と声をかけてくれた。


普通の暮らし。
当たり前に学校に行って、
当たり前に授業を受けて、
当たり前に友達と談笑して、
当たり前に部活して、
当たり前に学校を卒業する。

みんなとこれからもたくさんの思い出を作るんだ。

気合い入れてけ、根性見せろ。

私なら出来る。

































ぴぴぴぴっぴぴぴぴっ



不快で規則的な機械音。
何度目かの目覚まし時計が鳴っている。




「あぁ、最悪、。」


"夢"を見ていた。







もう割り切った

全て捨てた


はずなのに……



今更なんて夢を見るんだ。

最悪の目覚めだった。





朧気な頭で音の鳴る方を手探りで探し、アラームを止める。時計の針は、短い針は1、長い針は12を指していた。窓の外は明るい。昼の1時なのだろう。

重い身体をなんとか起こし、ベッドの隣にある机に手を伸ばす。そして机の上にある薬とコップ一杯の水を寝起きの体に流し込む。
少しの動作では有り得ないほどの疲労。
「はぁ疲れた」
力尽きてまた寝転がった。


薬と水はいつも寝る前に用意している。
薬は血圧をあげるものだ。



枕元にあるはずのスマホを手探りで探して、適当に音楽をかける。

いつも身体が少し軽くなるまで、こうやって時間を潰す。



これが私の"今"のルーティーン。




今朝の夢思い出し、"過去"の憐れな自分に冷笑する。




薬さえあれば大丈夫だと。
またすぐ元通りの生活を送れるようになると。

だけど
現実はそう甘くなかった──────。





...






薬を飲んでも効いてる気がしない身体を、なんとか引きずって学校に行く。朝のチャイムには間に合わず、遅刻になってしまっていたがそれでもなんとか通っていた。

毎日友達が、
待ってたよ~!
と遅刻で来る私に嫌な顔せず温かく迎えてくれた。
本当に優しい自慢の友達。

だけど全員が全員、そうとは限らない。



ある日数学の授業中遅刻で教室に入る。授業の邪魔をしないようにこっそり座ろうとした瞬間、

「先生よりも教室に入るの遅いなんて、いいご身分だねえ。」

耳を疑った。けど確実にそう先生は言っていた。

もちろん好きで遅刻してる訳ではない。
私だって遅刻せずに済むなら遅刻なんてしたくない。
みんなと同じように生活がしたい。

ほとんど毎日遅刻で来る私を疎ましく思う人はいるとは分かっていた。
だけどまさか今1番言われたくないことを先生に言われるとは思わなかった。

席に着くなり涙が止まらなかった。なんて酷いんだと思った。

だけどそれと同時に、きっとこれが世間の反応なのだろうとも思った。







遅刻してでも頑張って学校に行ったが、それでも学校を休んでしまう日もあった。
そして学校を休んだ日はいつも友達はメールをくれた。


「由未大丈夫ー?」
「ゆみぃ、会いたいよ〜」
「みんな待ってるよー!」


いつも心配してメールをくれる友達の優しさに胸がいっぱいになった。私の居場所は学校にある。私は大好きな友達からのメールを見る度、早く治さなきゃって意気込んだ。



「全然大丈夫!!」
「私も会いたいよぉ」
「ありがとうー!」



しかし現実とは無情だ。




私の気持ちとは裏腹に、
学校に行ける日はどんどん減っていった。

それでも何日休んだとしても友達からの連絡が途絶えることはなかった。本当に優しい人達だと今でも思う。


減ってく日数と増えてくメール。



最低の私は、友達が温かければ温かいほど現実の冷酷さに耐えられなくなっていった。



毎日返信していたのが、
1日おきに返すようになり、
また1日、1日と、ついには未読のまま返信出来ずにいた。



会いたいのに会えない。

行きたいのに行けない。



もう、1人になりたかった。

会えないのなら、行けないのなら、

もう1人になりたい。


私は誰にも返信することなく、友達と連絡のとれるアプリを誰かに相談することなく全て消し、高校も退学した。
















どのくらい経ったんだろう。
時計を見ると、3時を指している。
2時間くらい経ったみたいだ。
たしかに起きた時よりかは身体は軽かった。

起き上がり、階段を降りて顔を洗う。
鏡に写った私の顔は、頬は痩け、虚ろな目と、青白い顔。
ため息がこぼれる。


誰もが手に入れることの出来る普通の暮らしと思っていたものは全く普通ではなく、当たり前に出来ると思っていたことは断じて、当たり前じゃなかった。

失うまで気づかなかったこの世の真理は、失ってから気づいた私にはもう遅すぎる。

「はあ、」

ため息をすると幸せが逃げていくというけれど、もし本当にため息で幸せが逃げるのなら、私はいくつの幸せを手放してしまっているのだろうか。

軽く遅い朝食を済ませ、用意をする。

用意といっても、服を着替え、髪の毛をただ1つに結ぶだけ。
高校に通ってた頃は毎朝1時間用意にかかっていたが、今では5分の間に用意は終わる。
5分以上も用意にかける体力は残されていない。

スマホと家の鍵を持って、外に出る。

出来るだけ太陽の光を浴びて運動をするようにと医者に言われてから、私は毎日外を散歩するようにしている。
まだ在学していたときから続けていることと言えば、この毎日の散歩くらいだ。

今日の空は一段と暗い色をしていた。
分厚いくすんだ色をした雲は太陽に覆いかぶさり、辺りから明るさを奪っていた。
少し肌寒い風が吹いている。











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