辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
ある日、
使者が侯妃様の前に現れる。
「アズールティアより、少しお届け物です」
小さな包みの中に入っていたのは、
デクランの手作りの工芸品だった。

添えられた手紙には
『侯妃様が少しでも笑顔でいられますように――』
と優しい言葉がつづられていた。

ファティマは胸を押さえ、
自然に涙がこぼれる。
「……こんなに優しい人が、この世界にいるなんて……」

侯国の日々は相変わらず冷たく、孤独は続く。
でも、デクランの思いと優しさは、
確実にファティマの心を温め、支えていた。

手紙を読み返すたび、
心の奥で小さな願いが芽生える。
“いつか……この手で、あの温かさに触れたい”

ファティマは、
孤独と責務の間で揺れながらも、
少しずつ、逃げ出したい
――アズールティアでの自由と愛に身を委ねたい――
その思いを募らせていくのだった。
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