彰人さんが彼女にだけ優しい理由
連れ…、とそう呟いた詩織。
心ここにあらずな様子の彼女を見て、男性店員は、首を傾げると、そそくさとその場を去って行ってしまった。詩織は冴えない頭で反芻した。
同じ文言をブツブツと繰り返し口にする。そして7、8回繰り返した頃だった。ふと湯が沸点に達したかの如く、ハッと思考回路が鮮明に起動した。
「…連れ……ヤバ…!」
5年前、会話もほとんど出来なくなった姉。
その病室の傍にある待合室の長椅子に腰掛け、嗚咽を漏らしていた私に、彰人さんは目の前にペットボトルのお茶を差し出した。
あの日、姉が息を引き取るまる1日前。待合室で泣いていた私。彼自身がもっと辛いかもしれないのに、私の隣に腰掛け、背中をトントンとさすってくれた。
「人間はな?死んだとしても、いなくなるわけじゃない。見えなくなるだけで、傍にはずっといてくれてるんだ」
鼻を赤くして体を起こして振り返った私に、彼はにこっと微笑むと、私の頭に手を乗せる。
「従兄弟がな、交通事故で臨死体験して、そんなこと言ってた」
「臨死体験?」
「あぁ。ずっとベッドに寝てる自分に話しかける家族をそばに立って見てたんだと。生還してそのことを話したら、その通りだったって」
彼にしては珍しい話の内容だ。