彰人さんが彼女にだけ優しい理由
 「起きた?」

 背後から聞こえた男性の声。驚き振り向くと、ベッド傍に彼、藻崎氏が立っていた。彼は、私、奈月を見つめ、微笑んでいる。シャワーを浴びたらしい。白いバスローブを纏っていた。
 その身なりに、何だか得体のしれない不安が、無性に私の中で渦巻き始める。
 テレビドラマで一度くらいなら誰でも観たことのあるような状況に、私は無意識に恐る恐る自身の身なりを見下ろした。
 見た瞬間、驚きのあまり目を丸くする。
 着た覚えのない白いバスローブを身に(まと)っていた。そうっと藻崎氏を見やると彼は目を細める。

「大丈夫。服の上から着せただけ。見ちゃいないよ」

 不意に彼は歩み寄って来る。
 そのままベッドの端の棚に置かれた、卓上ランプの明かりをつける。私はそうっとベッドから降りる準備をするべく姿勢を正した。

「お店でベロンベロンになって寝ちゃってたからね…タクシーでここまで来たんだよ」

 シーツの上に両足を伸ばして床の方へと脚を下ろす。さりげなく床に足を着けようとした時だった。
 降りようとしてグイッと掴まれた手首に、これ以上ないほどビクッと肩を跳ねさせた。心臓がバクリと跳ね上がる。
 驚く私とは反対に、彼は目を細めて微笑んでいる。
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