コンビニからはじまる最後の恋
Story 1
宮本夏葉、29歳。
給料日前夜のコンビニで、人生最大のピンチに陥っていた。

ピーッ!
レジの派手なエラー音に、私の心臓が大きく跳ねる。

「えっ?」

スマホを見ると、なぜかアンテナが一本も立っていない。

もう一度端末にスマホをかざしてみるが、再びピーッ。
人の少ない深夜のコンビニに、無情に響く拒絶音。
店員さんをチラッと見ると、申し訳なさそうに眉根を下げる。

「今の時間、キャリアが電波障害みたいですよ」
「でんぱしょうがい……」

どうやら数時間前から発生していたようで、交通系ICカードを使用していた私はそのことに気づいていなかった。
よりによって私のキャリアだけ電波障害とは運が悪い。

「じゃあ現金で」

財布を開いた瞬間、サーッと血の気が引いていく。
今日は給料日前夜。ギリギリの攻防で財布はスカスカ。
3年使い込んでいる長財布の中身は、僅かな小銭とポイントカードの群れ、そしてレシートの化石だけ。

(おかしいな、今朝は確かに野口英世が数枚いたはず)

と、そこで退職する先輩への餞別の集金があったことを思い出す。

(どうしよう、から揚げ弁当が今日を生きる糧だったのに……)

チン!

軽快な音とともに、店員さんが電子レンジから私のお腹におさまる予定のから揚げ弁当を取り出す。

残業で身も心もゴリゴリ削られている私に、
“お金が払えない”という現実が容赦なく追い打ちをかけてくる。

(そうだ、ATMがあった!)

「あの……」

と言いかけた瞬間、スッと隣に誰かが立った。
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