夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。
ホームに滑り込んできた電車のドアが開くと、暖房の温かい空気が僕を包み込んだ。
車内は、吊り革を掴んでスマートフォンを眺めるサラリーマンや、参考書を広げる他校の生徒たちで埋まっている。
僕は空いているドアの横に背中を預け、流れていく景色をぼんやりと眺めた。
ガタン、ゴトンと規則正しく響く振動。
それが、僕をかろうじて現実の世界に繋ぎ止めてくれている唯一の鎖のように思えた。
「⋯⋯はぁ」
無意識に溜息が漏れる。
窓ガラスに映る自分の顔は、相変わらず幽霊のように生気がなかった。
電車の走行音に混じって、耳元で衣擦れのような音がした。
そして、先ほどの道端で感じたあの「春の香り」が、さらに濃くなって鼻腔を突く。
『――ねえ、佑介くん』
鈴を転がすような、透き通った声が聞こえた気がして、僕は弾かれたように顔を上げた。
「え?」
隣には、無表情にスマホをいじる中年男性がいるだけだ。もちろん、僕の名前を知る者なんてこの車両にはいない。
⋯⋯幻聴か。
心臓の音がうるさく耳の奥で鳴り始める。
誰かが、僕を呼んでいる。
まだ見ぬ誰かが、深い深い眠りの底から。
冷房の風が、不自然に暖かく感じられた。僕は震える手を隠すように、鞄のストラップを強く握りしめた。