夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。
足を踏み出した瞬間、世界の音が死に絶えた。
僕を呼ぶあの透き通った声だけが、頭蓋の奥で心地よく反響している。
星が降り注ぐ夜。
舞い散る桜。
そこはあまりに美しく、現世の苦しさなど何一つ存在しない聖域のように思えた。
「――佑介!危ないッ!」
鼓膜を劈くような叫びが、背後から響いた。
幸一の声だろうか。それとも島だろうか。
けれど、その警告さえも、今の僕には遠い異国の言語のようにしか聞こえない。
不意に、視界の端から巨大な光の塊が迫りくるのが分かった。
夜を切り裂くような、暴力的なまでの白濁した光。
激しいアスファルトの摩擦音。
空気を震わせる金属の軋み。
理解が追いつくよりも早く、重戦車に突き飛ばされたような衝撃が全身を襲った。
体が宙に浮く。
重力から解き放たれ、視界が上下に激しく回転した。
夕焼けに染まった空、引きつった表情でこちらに手を伸ばす幸一の指先、呆然と立ち尽くす島。
スローモーションのように流れていくそれらの光景が、まるで古い映画のフィルムが焼き切れるように、パチパチと音を立てて消滅していく。
地面に叩きつけられた衝撃さえ、もう感じなかった。
ただ、口の中に広がる鉄の味と、アスファルトの無機質な熱さだけが、僕に残された最後の感覚だった。
「佑介!おい、佑介!!」
誰かが僕の名前を呼んでいる。必死に、泣きそうな声で。
返事をしなきゃ。
そう思うのに、指先一つ動かすことができない。
意識の輪郭が、急速に闇へと溶けていく。
遠のいていく意識の最後、視界に映ったのは、血に染まった僕の手のひらに、ふわりと舞い降りた一ひらの桜の花びらだった。
この場所に、あるはずのない。
僕にしか、見えない。
⋯⋯綺麗だ。
そう思った瞬間、僕の十四歳の誕生日は、底なしの暗闇へと突き落とされた。