忌子の幽体離脱令嬢ですが、公爵さまに執着されてます
「おい!大丈夫か!おい!」
「大丈夫か」という心配する言葉とは裏腹に、どこか怒気を含んだ声で呼びかけられている。
どなたの声でしょうか?私なんかに声をかけてくださるなんて……。もしかして、お客様の前で倒れてしまったのでしょうか?
頭がズキズキとする。
早く立ち上がらなければ、早くしなければ、またステラお姉様にぶたれてしまう。
急いで目を開けると、見知らぬ人達に見下ろされていた。
ど、ど、どういう状況でしょうか……?
また、私、倒れてしまったのかしら。でも、いったいここはどこなんでしょう?
それに、そんなに揺らさないでくださいませっ。
今、起きますから。
ふかふかの敷物の上に仰向けに倒れていた私の肩を、ゆさゆさゆさと初老の紳士が揺らしていた。
あれ?ふかふか?わが家にこんなふかふかの敷物なんてあったかしら?
きょろきょろと見知らぬ人達を見回すと、ぱちりと男性と目が合う。
「………え?」
(きれい)
肩まである輝くような金髪を一つに束ねたその男性は、黄金色の瞳で射抜くような視線を向けている。
軽蔑の眼差しを向けられるのは、日常茶飯時。
このような綺麗な方から睨まれると、流石に少し怖い。
「なんだ、その呆けた顔は!」
「ソル様、そのような物言いはいかがなものかと。こちらの階段から落ちたのですよ?」
「リチャード、お前も見ただろう?この女は自ら転がり落ちていたぞ」
「確かに、私の目にもそのように見えましたが、いくら悪名高いイライザ様でも、お怪我をされているかと存じます。」
「そういうことか。今度は怪我をしたから責任を取れと言うつもりだな?だが、あいにくだったな。ここにいる者達全員が、お前が「自ら転がり落ちた」と証言するだろう。そうだな?」
「えぇ、私も見ました。」
「イライザ様が、こうやって転がり落ちていましたわ」
男性の質問に同調するように、メイド達は頷く。
イライザ様?いったい誰のことを言っているの?それにメイドがいるわ。それじゃあ、初老の紳士は執事? そして、金色の瞳を持つこの男性がご主人様?
大変だわ!私ったらどこかのお屋敷に迷い込んでしまったのだわ。しかも、階段から落ちるなんて最悪だわ。
ど、どうしましょう……このことが知られたら、家を追い出されてしまう。
「も、も、申し訳ございません!どうか、どうか、お赦しくださいませ!すぐに出て行きますので!」
正座をして、床に頭をつけて深く土下座をした。
その後、頭を足で押し付けられるのを待った。
「━━は?」
何か間違えたのかしら?頭を踏まれないわ。角度がいけないのかしら?
「申し訳ございません。もう二度と迷い込んだりしませんので、どうかお赦しください。重ね重ね申し訳ないのですが、急いで帰らなければなりませんので、失礼させていただきます!」
先程より更に深く頭を下げて土下座をする。が、いつまで待っても頭を踏まれる気配はない。
(ステラお姉様なら、足でぐりぐりと踏んでくるのに……)
「いったい、今度は何を企んでいる!」
(ど、ど、どうしましょう……)
きっと、お怒りが収まらないのだわ。けれど、とにかく急いで帰らなければ、ステラお姉様のお仕置きが酷くなるわ。
ススススーッと土下座のまま器用に後退して、立ち上がった瞬間、バタンと転倒した。
(痛い……)
それでも、這うように進もうとしたら、ふわりと宙に身体が浮き上がる。
「ひゃぁ!」
まるで荷物を担ぐように、男性の肩に乗せられていた。
「チッ、階段から落ちて足を捻ったようだな。自業自得とはいえ手当てをせずに帰す訳にはいかない。リチャード、主治医を呼べ
」
「かしこまりました。ソル様。客室を準備致しますか?」
「そこまでする必要はない。空いている使用人の部屋で充分だ」
「しかし、それではイライザ様が……承知いたしました。」
「いいか、そんな見え透いた演技をしても無駄だ!とりあえず手当てだけはしてやる!だが、その後はすぐに出て行け!」
「あ、あ、あ、あの、下ろしてくださいませっ。手当てなど不要ですので……」
「はっ!手当てよりも責任を取れということか?どうしようもない女だな。イライザ、いいかよく聞け。勘違いしているようだから、この際はっきりと言っておく。お前のことを名前で呼んでいることに特別な意味はない。令嬢扱いする価値もないとみなしただけだ。だが、どうも理解できていないようなので仕方ない。クラーク嬢、もう二度と私の視界に入らないでくれ!」
イライザ?クラーク嬢?
盛大なはてなマークが頭の中を飛び回る。
だって━━。
私の名前は、ルーナ。
ルーナ・ハワード。秘されているけれど、
一応ハワード伯爵家の娘だ。
なぜ秘されているかというと、私には双子の姉のステラお姉様がいるから。
本当なら、私は、生きていてはいけない存在だから。
だから、使用人以下の扱いを受けても、八つ当たりのように酷い暴力を受けても、まともな食事を与えられなくても、ただ、黙って耐えるしかない。
存在が知られてしまったら、その時は今度こそ殺されてしまうから。
だから、早く帰らなければいけない。これ以上誰かに見られる訳にはいかない。
髪色は違うけれど、私の顔は誤魔化しようがないがないくらいに、ステラお姉様にそっくりなのだから。
(うぐっ、苦しいわ)
男性の肩に、くの字に折れ曲がるように担がれている。腹部が肩に圧迫されて痛い。
じたばたと上半身を起こそうともがいてみる。
(え?これは私の手?)
透き通るような白い肌。水仕事など何もしたことがないのではないか、と思われるような潤いのある手。
どうして?待って、どういうこと?何が起こっているの?
だって、私の手は長年の水仕事で荒れ果てていたもの。
赤ぎれた指、ひび割れて乾燥したガサガサとした手。
指先の皮膚だって硬化していたはずなのに……。
夢を見ているの?
「お、お、おろしてください!あの、あの、私……」
(ええい!)
両手に力を入れてなんとか上体を起こすことに成功した。
「え⁉︎ え⁉︎えー⁉︎うそでしょう⁉︎」
廊下の壁に取り付けられていた鏡に映り込んだ自身の姿を見て、驚愕の声が漏れる。
二度、三度、四度と首を捻り確認した。
そこには金髪の男性の肩に担がれた、自分━━輝くような金色の髪を持つ女性が映っていた。
キリッとした眉がキツい印象を与える。けれど、絶世の美少女だった。パッと見ただけでも丁寧に手入れされた艶のある髪だと分かる。それに張りのある肌、少し濃いめの化粧が残念だけれど、誰もが間違いなく振り向くだろう美人だ。
誰?これが私?まさか……
「ひぃ!」
自分の置かれた状況をなんとなく理解した途端、声にならぬ悲鳴と共に意識を失った。
「おい!どうした!おい!」
「イライザ様?大変です、ソル様、イライザ様が気を失っておられます」
「ソル様、先程からイライザ様の様子がおかしくありませんか?もしかしたら、頭を打ったのかもしれません!」
「なんだと?演技ではあるまいな?クソっ、どこまでも面倒な女だ。とにかく急ぎ部屋に連れて行く。」
どうか、どうか、夢でありますように。目が覚めたら元の身体に戻っていますように……。
その願いも虚しく、次に目が覚めた時も、イライザ・クラークの姿のままだった。
「大丈夫か」という心配する言葉とは裏腹に、どこか怒気を含んだ声で呼びかけられている。
どなたの声でしょうか?私なんかに声をかけてくださるなんて……。もしかして、お客様の前で倒れてしまったのでしょうか?
頭がズキズキとする。
早く立ち上がらなければ、早くしなければ、またステラお姉様にぶたれてしまう。
急いで目を開けると、見知らぬ人達に見下ろされていた。
ど、ど、どういう状況でしょうか……?
また、私、倒れてしまったのかしら。でも、いったいここはどこなんでしょう?
それに、そんなに揺らさないでくださいませっ。
今、起きますから。
ふかふかの敷物の上に仰向けに倒れていた私の肩を、ゆさゆさゆさと初老の紳士が揺らしていた。
あれ?ふかふか?わが家にこんなふかふかの敷物なんてあったかしら?
きょろきょろと見知らぬ人達を見回すと、ぱちりと男性と目が合う。
「………え?」
(きれい)
肩まである輝くような金髪を一つに束ねたその男性は、黄金色の瞳で射抜くような視線を向けている。
軽蔑の眼差しを向けられるのは、日常茶飯時。
このような綺麗な方から睨まれると、流石に少し怖い。
「なんだ、その呆けた顔は!」
「ソル様、そのような物言いはいかがなものかと。こちらの階段から落ちたのですよ?」
「リチャード、お前も見ただろう?この女は自ら転がり落ちていたぞ」
「確かに、私の目にもそのように見えましたが、いくら悪名高いイライザ様でも、お怪我をされているかと存じます。」
「そういうことか。今度は怪我をしたから責任を取れと言うつもりだな?だが、あいにくだったな。ここにいる者達全員が、お前が「自ら転がり落ちた」と証言するだろう。そうだな?」
「えぇ、私も見ました。」
「イライザ様が、こうやって転がり落ちていましたわ」
男性の質問に同調するように、メイド達は頷く。
イライザ様?いったい誰のことを言っているの?それにメイドがいるわ。それじゃあ、初老の紳士は執事? そして、金色の瞳を持つこの男性がご主人様?
大変だわ!私ったらどこかのお屋敷に迷い込んでしまったのだわ。しかも、階段から落ちるなんて最悪だわ。
ど、どうしましょう……このことが知られたら、家を追い出されてしまう。
「も、も、申し訳ございません!どうか、どうか、お赦しくださいませ!すぐに出て行きますので!」
正座をして、床に頭をつけて深く土下座をした。
その後、頭を足で押し付けられるのを待った。
「━━は?」
何か間違えたのかしら?頭を踏まれないわ。角度がいけないのかしら?
「申し訳ございません。もう二度と迷い込んだりしませんので、どうかお赦しください。重ね重ね申し訳ないのですが、急いで帰らなければなりませんので、失礼させていただきます!」
先程より更に深く頭を下げて土下座をする。が、いつまで待っても頭を踏まれる気配はない。
(ステラお姉様なら、足でぐりぐりと踏んでくるのに……)
「いったい、今度は何を企んでいる!」
(ど、ど、どうしましょう……)
きっと、お怒りが収まらないのだわ。けれど、とにかく急いで帰らなければ、ステラお姉様のお仕置きが酷くなるわ。
ススススーッと土下座のまま器用に後退して、立ち上がった瞬間、バタンと転倒した。
(痛い……)
それでも、這うように進もうとしたら、ふわりと宙に身体が浮き上がる。
「ひゃぁ!」
まるで荷物を担ぐように、男性の肩に乗せられていた。
「チッ、階段から落ちて足を捻ったようだな。自業自得とはいえ手当てをせずに帰す訳にはいかない。リチャード、主治医を呼べ
」
「かしこまりました。ソル様。客室を準備致しますか?」
「そこまでする必要はない。空いている使用人の部屋で充分だ」
「しかし、それではイライザ様が……承知いたしました。」
「いいか、そんな見え透いた演技をしても無駄だ!とりあえず手当てだけはしてやる!だが、その後はすぐに出て行け!」
「あ、あ、あ、あの、下ろしてくださいませっ。手当てなど不要ですので……」
「はっ!手当てよりも責任を取れということか?どうしようもない女だな。イライザ、いいかよく聞け。勘違いしているようだから、この際はっきりと言っておく。お前のことを名前で呼んでいることに特別な意味はない。令嬢扱いする価値もないとみなしただけだ。だが、どうも理解できていないようなので仕方ない。クラーク嬢、もう二度と私の視界に入らないでくれ!」
イライザ?クラーク嬢?
盛大なはてなマークが頭の中を飛び回る。
だって━━。
私の名前は、ルーナ。
ルーナ・ハワード。秘されているけれど、
一応ハワード伯爵家の娘だ。
なぜ秘されているかというと、私には双子の姉のステラお姉様がいるから。
本当なら、私は、生きていてはいけない存在だから。
だから、使用人以下の扱いを受けても、八つ当たりのように酷い暴力を受けても、まともな食事を与えられなくても、ただ、黙って耐えるしかない。
存在が知られてしまったら、その時は今度こそ殺されてしまうから。
だから、早く帰らなければいけない。これ以上誰かに見られる訳にはいかない。
髪色は違うけれど、私の顔は誤魔化しようがないがないくらいに、ステラお姉様にそっくりなのだから。
(うぐっ、苦しいわ)
男性の肩に、くの字に折れ曲がるように担がれている。腹部が肩に圧迫されて痛い。
じたばたと上半身を起こそうともがいてみる。
(え?これは私の手?)
透き通るような白い肌。水仕事など何もしたことがないのではないか、と思われるような潤いのある手。
どうして?待って、どういうこと?何が起こっているの?
だって、私の手は長年の水仕事で荒れ果てていたもの。
赤ぎれた指、ひび割れて乾燥したガサガサとした手。
指先の皮膚だって硬化していたはずなのに……。
夢を見ているの?
「お、お、おろしてください!あの、あの、私……」
(ええい!)
両手に力を入れてなんとか上体を起こすことに成功した。
「え⁉︎ え⁉︎えー⁉︎うそでしょう⁉︎」
廊下の壁に取り付けられていた鏡に映り込んだ自身の姿を見て、驚愕の声が漏れる。
二度、三度、四度と首を捻り確認した。
そこには金髪の男性の肩に担がれた、自分━━輝くような金色の髪を持つ女性が映っていた。
キリッとした眉がキツい印象を与える。けれど、絶世の美少女だった。パッと見ただけでも丁寧に手入れされた艶のある髪だと分かる。それに張りのある肌、少し濃いめの化粧が残念だけれど、誰もが間違いなく振り向くだろう美人だ。
誰?これが私?まさか……
「ひぃ!」
自分の置かれた状況をなんとなく理解した途端、声にならぬ悲鳴と共に意識を失った。
「おい!どうした!おい!」
「イライザ様?大変です、ソル様、イライザ様が気を失っておられます」
「ソル様、先程からイライザ様の様子がおかしくありませんか?もしかしたら、頭を打ったのかもしれません!」
「なんだと?演技ではあるまいな?クソっ、どこまでも面倒な女だ。とにかく急ぎ部屋に連れて行く。」
どうか、どうか、夢でありますように。目が覚めたら元の身体に戻っていますように……。
その願いも虚しく、次に目が覚めた時も、イライザ・クラークの姿のままだった。


