私は死亡者
部屋は荒らされていた。
机は倒れ、引き出しは床に散乱し、私のバッグは裏返しになっている。

なのに玄関の鍵は閉まっていた。

「……なに、これ……」

喉は掠れて声にならない。
昨夜の記憶が、どれだけ探しても、まるごと抜け落ちている。

私は自分の名前さえ、口に出して確認した。

「……みす、ず……美鈴。私は……美鈴」

それを確かめた瞬間だった。

床に落ちたスマホが震え始めた。
通知の文字列が目に入った瞬間、私は思わず息を呑んだ。
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