君の声に触れた日
本音の和解
翌朝、昇降口で靴を履き替えていると、
陽芽はすぐに気づいた。
「……咲良?なんか……元気ない?」
咲良は一瞬だけ笑顔を作った。
だがその目の奥は、泣いた跡のように赤い。
「ん? 別に。ちょっと寝不足~」
「嘘。」
即答だった。
咲良の足が止まる。
「咲良……
私、最近ずっと思ってたんだけど……
何かあったよね?」
「……なんもないってば。」
笑う。でも声が掠れている。
陽芽はそっと咲良の腕を掴んだ。
「なら、1限サボろ。
話してくれるまで、行かない。」
「え……サボるのは……」
「咲良の顔見て授業行く方が無理。」
その言い方に、咲良の心が少し揺れた。
「……陽芽ほんっと……強いよね。」
でも、強く優しいその手を咲良は振り払えなかった。
ーーー
風がやさしく吹く屋上。
チャイムが鳴り、周りは静かになった瞬間
咲良は、ふっと座り込んだ。
陽芽も隣に座る。
「話して。
泣いたまま黙ってるの、
咲良らしくないよ。」
「……泣いてないし。」
「じゃあその目の赤さの理由は?」
咲良は視線をそらした。
そして、
ためていたものが一気に決壊する。
「私ね……私ね、遥輝のことが……」
陽芽の表情が一瞬変わる。
「……うん。」
「……好きなの。」
途切れ途切れでも、確かに届く。
「ずっと小さい頃から……
一緒にいて、何しても褒めてくれて……
困ったら真っ先に気づいてくれて……
バカにするくせに、
私が本気で困るとすぐ助けてくれて……」
言ってはいけなかったはずの言葉が
止まらなくなっていく。
「でもさ……あの人、最近ずっと陽芽のほう見てた じゃん。
陽芽の話するときだけ、楽しそうでさ……
分かってるのに……応援してあげたくて……でも応援すると苦しくて……
もう訳分かんなくて……」
陽芽の喉がきゅっと鳴った。
「私が応援してあげないと……
遥輝の背中押してあげないと……
って思って……頑張って笑ってたのに……」
咲良は声を震わせ、拳を握った。
「昨日……限界だった……
遥輝が陽芽を見てる顔……
あれ……初めて見た……
ほんとに…ほんとの本気の顔だった……」
「咲良……」
「陽芽、ごめん……!
好きになっちゃってごめん……!」
堰を切ったように咲良は泣き出した。
陽芽は驚いた。
けれど、すぐに抱きしめる。
「謝らなくていい……!
咲良は誰を好きになっても
いいんだよ……!」
「……っ……」
咲良の嗚咽が風に溶ける。
咲良は泣きながら笑った。
「バカだよね、私……
幼なじみなのに……
何してんだろって……」
陽芽の胸がぎゅっと痛くなる。
「……咲良。
ごめん……気づかなくて。」
「謝らないでよ……
陽芽は悪くない。」
(咲良……こんなに苦しかったんだ……
誰にも言えなくて、一人で抱えてたんだ……)
抱きしめながら、陽芽の胸も痛くなる。
咲良が泣き疲れて、
陽芽の胸に額を押しつけたまましばらく動けな かった。
陽芽も背中をそっと撫でながら、
ただ黙って寄り添っていた。
やがて、咲良は涙の跡を指でぬぐう。
「……ごめん。
なんか……全部言っちゃった……」
「言っていいよ。
言ってくれてよかった。」
陽芽がそう微笑むと、
咲良も鼻をすすりながら、へにゃっと笑った。
「……陽芽が相手でよかった。
他の子だったら絶対言えないもん。」
「私も……咲良にだから話せるよ。」
一瞬、2人の視線が合う。
そして――
ほっとするように、2人は同時に笑った。
泣いて、笑って、
ようやく胸のつっかえが消えていった。
「なんか……スッキリしたね。」
「うん。なんか……晴れた。」
咲良が小さく息をついて笑うと、
陽芽もつられて笑った。
本当の意味で“和解”した瞬間だった。
ーーー
咲良はふいにぽつりとつぶやいた。
「……ねぇ、陽芽。」
「ん?」
風が2人の間を抜ける。
「陽芽は?
……遥太とは……どうなの?」
その瞬間、
陽芽の胸がどきん、と跳ねた。
「えっ……!」
「だって……」
咲良は、ちょっとだけ意地悪そうに微笑む。
「昨日も今日も、
遥太のことになると……
陽芽、すぐ耳赤くなるよ?」
「なってないもん!!」
「なってる、なってる〜♡」
咲良がからかうように笑う。
その笑顔は――もう昨日の弱った顔じゃない。
陽芽はぷいっと顔をそらしながら、
ごまかすように呟いた。
「…ちょっとだけ、ドキドキはするけど。
でも……まだよく分かんない。」
その声の小ささに、
咲良は優しく微笑んだ。
「うん。
それでいいよ。ゆっくりで。
……陽芽の恋も、大事にしなよ。」
そう言って、
咲良は陽芽の手をそっと握った。
陽芽はすぐに気づいた。
「……咲良?なんか……元気ない?」
咲良は一瞬だけ笑顔を作った。
だがその目の奥は、泣いた跡のように赤い。
「ん? 別に。ちょっと寝不足~」
「嘘。」
即答だった。
咲良の足が止まる。
「咲良……
私、最近ずっと思ってたんだけど……
何かあったよね?」
「……なんもないってば。」
笑う。でも声が掠れている。
陽芽はそっと咲良の腕を掴んだ。
「なら、1限サボろ。
話してくれるまで、行かない。」
「え……サボるのは……」
「咲良の顔見て授業行く方が無理。」
その言い方に、咲良の心が少し揺れた。
「……陽芽ほんっと……強いよね。」
でも、強く優しいその手を咲良は振り払えなかった。
ーーー
風がやさしく吹く屋上。
チャイムが鳴り、周りは静かになった瞬間
咲良は、ふっと座り込んだ。
陽芽も隣に座る。
「話して。
泣いたまま黙ってるの、
咲良らしくないよ。」
「……泣いてないし。」
「じゃあその目の赤さの理由は?」
咲良は視線をそらした。
そして、
ためていたものが一気に決壊する。
「私ね……私ね、遥輝のことが……」
陽芽の表情が一瞬変わる。
「……うん。」
「……好きなの。」
途切れ途切れでも、確かに届く。
「ずっと小さい頃から……
一緒にいて、何しても褒めてくれて……
困ったら真っ先に気づいてくれて……
バカにするくせに、
私が本気で困るとすぐ助けてくれて……」
言ってはいけなかったはずの言葉が
止まらなくなっていく。
「でもさ……あの人、最近ずっと陽芽のほう見てた じゃん。
陽芽の話するときだけ、楽しそうでさ……
分かってるのに……応援してあげたくて……でも応援すると苦しくて……
もう訳分かんなくて……」
陽芽の喉がきゅっと鳴った。
「私が応援してあげないと……
遥輝の背中押してあげないと……
って思って……頑張って笑ってたのに……」
咲良は声を震わせ、拳を握った。
「昨日……限界だった……
遥輝が陽芽を見てる顔……
あれ……初めて見た……
ほんとに…ほんとの本気の顔だった……」
「咲良……」
「陽芽、ごめん……!
好きになっちゃってごめん……!」
堰を切ったように咲良は泣き出した。
陽芽は驚いた。
けれど、すぐに抱きしめる。
「謝らなくていい……!
咲良は誰を好きになっても
いいんだよ……!」
「……っ……」
咲良の嗚咽が風に溶ける。
咲良は泣きながら笑った。
「バカだよね、私……
幼なじみなのに……
何してんだろって……」
陽芽の胸がぎゅっと痛くなる。
「……咲良。
ごめん……気づかなくて。」
「謝らないでよ……
陽芽は悪くない。」
(咲良……こんなに苦しかったんだ……
誰にも言えなくて、一人で抱えてたんだ……)
抱きしめながら、陽芽の胸も痛くなる。
咲良が泣き疲れて、
陽芽の胸に額を押しつけたまましばらく動けな かった。
陽芽も背中をそっと撫でながら、
ただ黙って寄り添っていた。
やがて、咲良は涙の跡を指でぬぐう。
「……ごめん。
なんか……全部言っちゃった……」
「言っていいよ。
言ってくれてよかった。」
陽芽がそう微笑むと、
咲良も鼻をすすりながら、へにゃっと笑った。
「……陽芽が相手でよかった。
他の子だったら絶対言えないもん。」
「私も……咲良にだから話せるよ。」
一瞬、2人の視線が合う。
そして――
ほっとするように、2人は同時に笑った。
泣いて、笑って、
ようやく胸のつっかえが消えていった。
「なんか……スッキリしたね。」
「うん。なんか……晴れた。」
咲良が小さく息をついて笑うと、
陽芽もつられて笑った。
本当の意味で“和解”した瞬間だった。
ーーー
咲良はふいにぽつりとつぶやいた。
「……ねぇ、陽芽。」
「ん?」
風が2人の間を抜ける。
「陽芽は?
……遥太とは……どうなの?」
その瞬間、
陽芽の胸がどきん、と跳ねた。
「えっ……!」
「だって……」
咲良は、ちょっとだけ意地悪そうに微笑む。
「昨日も今日も、
遥太のことになると……
陽芽、すぐ耳赤くなるよ?」
「なってないもん!!」
「なってる、なってる〜♡」
咲良がからかうように笑う。
その笑顔は――もう昨日の弱った顔じゃない。
陽芽はぷいっと顔をそらしながら、
ごまかすように呟いた。
「…ちょっとだけ、ドキドキはするけど。
でも……まだよく分かんない。」
その声の小ささに、
咲良は優しく微笑んだ。
「うん。
それでいいよ。ゆっくりで。
……陽芽の恋も、大事にしなよ。」
そう言って、
咲良は陽芽の手をそっと握った。