貴方と奏でる夜想曲 貴女に奏でる小夜曲
午前中みっちり練習してからの、お昼。

クロカワは「ご飯ができるまであのピアノを弾いてきたら」とすすめてくれた。

(でも、やっばり……)

お言葉に甘えて、とピアノの前まで行きつつ、思い直してキッチンへ向かう。

(あ!クロカワ、エプロンしてる!)

キッチンの手前から、じっと中の様子をうかがう図(ちょっと、ううん……かなりアヤシイ)。

すると、振り返ったクロカワと目が合った。

(あ゛、えーと……)

視線を合わせたまま、互いにビタリとかたまる図(ちょっと気まずくて……なんか微妙)。

私ったら、うっかり人間と対峙した猫か。

或いは、だるまさんが転んだか。

「シライシってRPGとかする人?ドラクエとか」

(何故にいきなりゲームの話???)

「やるよ、最近はあんまりだけど。なんで?」

「いや、“仲間になりたそうにこちらを見ている”モンスターみたいだな、と」

(なっ……モンスターですと!?)

って、まったくこの人は何言い出すんだか。

でも、そういうの、私も嫌いじゃないし?

「“ボク、悪いシライシじゃないよ!”」

「ちょっ……悪いシライシって!」

私の超適切な対応に、クロカワが嬉しそうに笑う。

「シライシは“お手伝い”がしたいの?」

「お料理得意じゃないけど……できれば、何か」

「“いいえ”と言ったら?」

「“淋しそうに去っていく”だけだよ」

わざと恨めしそうに見つめると、クロカワはいっそう楽しそうにくつくつと笑った。

「じゃあ“はい”で。勇者も戦士も不在の、治癒魔法しか取り柄のない僧侶だけだけど」

「やった!“シライシが仲間に加わった!”よ」

私が喜び勇んで歩み寄ると、クロカワは自分がしていたエプロンをさっと外した。

そうして、それを――。

(ち、近いよっ!)

向かい合うかっこうで、私の首にかけた。

「服、汚れるといけないから。僕のなんで少し大きいかもだけど我慢して」

「そんな、申し訳ないよ」

「いいから。ほら、後ろ結ぶから向こうむいて」

「えっ、あ、うん……」

お着替えをさせられる子どもみたいに、言われるまま。

今にも抱きしめられそうな至近距離。

背中にクロカワの気配を感じながら、はしたなく妄想してしまう。

もしも、その腕で包み込むように、抱きすくめられたら……。

(近いし、クロカワいい匂いするし、こんなにドキドキさせられるなんて聞いてないよ)

そして、私はこんなにあわわってなってるのに、クロカワはぜーんぜん変わらないなんて。

ひょっとして、私ってば女友達ですらなく、妹みたいな存在だとか???

「はい、出来上がり」

「あ、ありがと」

「シライシは“おふるのエプロン”を装備した」

「へ?」

「シライシの“防御力”が“3”上がった」

「……クロカワの“防御力”が“3”下がった?」

あまりにも、おもろバカバカしいやりとりに、顔を見合わせ笑い合う。

(ねぇ、クロカワは誰とでもこんな感じなの?)

この感じ、私にはとてもとても特別なのに?

「お昼はオムライスの予定だよ」

「大好き!」

(ああもう、また「好き」って……)

クロカワといると、どういうわけか「好き」を連発しがちのような???

「よかった。食べ終わったら聞かせてよ、シライシのピアノ。噂の十八番」

「だーかーらー」

一方通行、独りよがり、温度差。

頭をよぎる悲しい言葉をかき消して、私は今を楽しむことに集中した。
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