【コンテスト用シナリオ】完全無欠の生徒会長は、自暴自棄な脱力系男子に溺愛される

第一話:夜と銀髪

〇私立灰嶺学園(かいれいがくえん)―市街地よりバスで20分ほどかかる高台に位置する中高一貫の共学校である。グレーを基調としたスタイリッシュなデザイン校舎(※中央、南北の三つある)が印象的ないわゆる「金持ち学校」だが、校風は割と自由で、生徒会による自治運営を推進する、いわゆる「自主独立の精神」を重んじている。

〇放課後、生徒会室(※北校舎)には生徒会メンバー5名(※全員女子生徒)が集まり、会議を行っている。
ひかり「―以上、皆さんから他に何かございますか」
きりっとした表情に凛とした声。だがそれに応える者はおらず、ひかりは小さく溜息をつく。
ひかり「ではこれで解散です。お疲れ様でした」
そそくさと生徒会室を後にする四人、部屋でぽつんと一人残ったひかりは立ち去らず、机の上に積んである山のようなファイルを整理し始める。彼女にとってはいつものことなので、至極平然としている。

〇回想、先日の定期テスト結果発表後のこと
モブ女子「黒宮さん、ほとんどの科目で満点だったらしいよ」
モブ女子「マラソンのテストも陸上部の人よりタイム良かったんだって、もう何ていうかちょっと怖いよね~」
2年C組の教室(※中央校舎)の入り口でひそひそ話をするモブ二人は、ひかりが教室に入った途端そそくさと自分の席に戻っていく。その様子をじろりと睨むひかり。
学校というのは勉学に励む場所であり、粛々と与えられた課題をこなし、結果を残すことが正しい在り方である。何事においても強くあるべきだ。幼い頃から両親に厳しく育てられたひかりはそう信じ込んでいる。
自席に戻り予習に励むひかりを、後ろの席から白堂夜斗が頬杖をついてじっと見つめている(ここでは顔は見えず、後ろ姿か顔一部のみのイメージ)

〇回想終了、冒頭の生徒会終了後のシーンに戻る
作業が終わり一息つくひかり、気が付けば外は真っ暗、夜になっている。
ひかり「こんな時間、急いで下校しないと」
壁にかかっている時計は下校時刻の五分前を指している。荷物を纏めて生徒会室を出て、正面玄関エントランスの扉を開けようとすると、何故かロックが掛かっていて開けることができない。
ひかり「えっ、どうして……!」
困惑するひかり、運動場の方から部活動の声がすることから、校内にまだ人はいるはず。北校舎は人が少ないことから、誰もいないと判断されたらしい。
ひかり「間違えて警備員さんが閉めちゃったのかな。とりあえず職員室に行かないと」
そう言って校舎の中に戻ると、気が付けば全ての明かりが落とされていてほとんど真っ暗になっており、ひかりは途端にひどく怯えてしまう。
非常灯を頼りにしながら、鞄を握りしめて恐る恐る廊下を歩いていき、階段を上ろうとして上を見上げた次の瞬間、真っ暗な踊り場からぬっと人影が出てきて、恐怖がピークに達したひかりはその場に崩れ落ちる。
ひかり「きゃああああああああああああ!」
耳を塞いで蹲り、震えるひかりに近付く足音。
ひかり「やだ、やめて……こっちこないで……! うぅっ、うぇぇん……」
涙を流して怯えるひかりの頭上から声がする。
夜斗「……ちょっと」
ひかり「えっ……」
泣き止んだひかりが顔を上げると、目の前に立っているのは夜斗だった。
ひかり「あなたは、白堂、くん……?」
徐々に落ち着きを取り戻すひかりと、無表情でじっと見下ろしている夜斗。
夜斗「驚かせたつもりはないんだけど」
ひかり「ご、ごめんなさい」
ぶっきらぼうで不機嫌そうな夜斗に萎縮するひかり、すると夜斗が手を差し伸べる。
ひかり「ありがとう……」
手を取り立ち上がるひかり。夜斗は目の前に立ち塞がったまま、ひかりを見下ろしている
ひかり「あの、何か……」
ひかりが夜斗を見上げると、夜斗は何も言わず、くるっと真横を向いて歩きだす。
少し離れた後、夜斗は振り返り、ふっと微笑する。
夜斗「……可愛い泣き方するんだね、生徒会長って」
再び振り返って立ち去っていく夜斗を呆然と見送っていたひかりは、馬鹿にされた!と思い徐々に怒りに震える。
ひかり「……な、なに、あれ……!」
人生で初めて、身内以外の人間に弱いところを見られたひかりは憤りのあまり奥歯を噛み締めるのだった。

〇次の日、教室・昼休み
ひかり「白堂くん、ちょっといいかしら」
だるそうに寝ていた夜斗の机に訪れたひかり、周囲のモブたちがざわつき、注目している。
起き上がった夜斗は何も言わずにひかりの顔を見る。

〇校舎屋上
ひかり「昨日のこと、誰にも口外しないって約束してほしいの」
ひかりが腕を組み、堂々と夜斗に言う。夜斗はポケットに両手を入れて立っている。
夜斗「何の話」
ひかり「何の、って……! その、私が、怖くて泣いちゃったこと……」
改めて思い出し、気まずそうに、そして恥ずかしそうにするひかり。
少し間をおいて夜斗が返す。
夜斗「……嫌だ、って言ったらどうすんの?」
ひかり「えっ」
ひかりが夜斗を見る。夜斗は小首を傾げる。
夜斗「アンタのお願いを聞いたところで俺にメリットないし」
ひかり「そ、それは……」
淡々と告げる夜斗に、ひかりが押し黙る。間をおいて夜斗が口を開く。
夜斗「俺と付き合ってよ。それなら誰にも言わない」
ひかり「……は?」
言っていることの理解が出来ず、ひかりは固まる。
ひかり「つ、つき……?」
夜斗「俺の彼女になるんなら、黙っててあげる」
ひかり「……はぁー!?」
青空にひかりの叫び声が木霊する。
ひかり「な、彼女って……!な、なんでそんな……!」
夜斗「何でって」
パニックになるひかりに一歩近づく夜斗、至近距離に固まるひかり。
夜斗「前からずっと可愛いなって思ってたけど、泣いてるところはもっと可愛かったから」
ひかり「……か、かわ……」
夜斗は昨晩と同じような微笑を浮かべる。だが、昨日とは違って太陽の光を受けたその笑顔は、ひかりの感情とは関係なしに輝いて見えた。
いきなりの展開にただ唖然とするひかりは暫しフリーズするが、やがて我に返り夜斗をじっとりと見つめる。
ひかり「……本当に、付き合ったら言わないでいてくれるの?」
夜斗「うん。約束する」
ひかり「……それなら……あ、で、でも付き合ってることは周りには絶対内緒で―」
ひかりの言葉を遮るように、夜斗が頬に軽くキスをする。
夜斗「今日から俺のものね。よろしく」
颯爽と立ち去る夜斗に、その場で残されるひかりは呆然とし、わなわなと震える。
ひかり「……ど、ど、どういうことなのー!?」
ひかりの叫びが青空へと吸い込まれていった。
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