拝啓、愛しのパイロット様
1.ファーストコンタクト

 あれは忘れもしない小学四年生の春のことだ。

「うわあ!かわいい!」
「好きな物を選んでいいのよ」

 祖母に手を引かれながらやって来たのは、商店街の中にある小さな文房具店だった。
 地域の人や子供たちに長年愛されてきたのがわかる古びた店内には、所狭しと様々な文房具が置かれていた。
 消しゴム、ホチキス、鉛筆といった定番の商品から、かわいいユニコーンが刺繍されたペンケース、リップグロスそっくりのラメ入りの液体のりまで。
 乙女心をくすぐる文房具の数々に、小町は胸を高鳴らせた。
 ところが、見惚れていたのも束の間。
 胸の中にぽっと灯った眩い光は、瞬く間に消えてしまう。

「やっぱいい」

 我に返った小町は床を見つめながら首を横に振った。

「どうして?」

 祖母は心配そうにこちらを見つめていたが、理由を尋ねられても、なかなか本心を打ち明けられない。
 小町は唇をぎゅっと噛み締め、ただただ耐えた。

『あなたは今日からここで暮らすの』

 母はそう言って、小町をそれまでほとんど面識のなかった祖母の家に置いていった。
 おそらく、再婚するのに子連れでは外聞が悪かったのだろう。

『おばあちゃんの家でも、ちゃんといい子にするのよ』

 母は素っ気なく言い放つと、後ろを一度も振り返らず立ち去っていった。
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