拝啓、愛しのパイロット様
(私は捨てられたんだ)
あのとき小町は幼いながらに、母は二度と戻ってこないのだと悟った。
二年前に父と離婚してから今まで親ひとり子ひとり、二人三脚でうまくやってきたと思っていたのは自分だけで。
母はずっと、心の拠り所となる男性を求め続けていたのだ。
実際、あれから一週間が経っても母は、小町はおろか祖母にも連絡ひとつ寄越さない。
薄情な母親のことなんて忘れた方がいいと頭では理解していても、心のどこかでまだ期待を捨てきれずにいる。
小町は言いつけを守ろうと母の毛嫌いする派手な文房具を遠ざけようとしていた。
「小町」
祖母は頑なに文房具から目を背ける小町の両手を握り、良心の狭間で揺れる瞳を真っ直ぐ見据えた。
「あなたの素直な気持ちを教えてくれる?」
優しい声色で尋ねられ、改めて自分の気持ちに焦点を当てる。
小町のランドセルに入っている文房具たちはたしかに使い勝手はいい。けれど、好きかと尋ねられたら、違うと答えざるをえない。