拝啓、愛しのパイロット様

 ◇

 九月になっても残暑の厳しいある土曜日のことだ。

「うわあ!たくさんありますね!」
「ざっと三百通はあるかな」

 由桔也はそう言いながら抱えていた段ボール箱をダイニングテーブルの上に置いた。
 箱の中には個展への招待状と封筒がぎっしりと入っている。

「これ全部に手書きで宛名を書くんですか?」
「ああ。やっぱり手書きだと喜んでもらえるしな」

 実登里の個展まで、残すところあと二か月。
 準備は着々と進み、粗品として渡すポストカードも刷りあがり、来場者の手もとに届けられる日を今か今かと待っている。

「宛名は俺が書くから、小町は招待状を封筒に入れて、切手を貼ってくれるか?」
「わかりました。任せてください」

 三百通の封入作業は大変だけれど、手分けすれば効率がいい。

 こうした細々とした作業を請け負うのも、個展の運営を任された彼の役割なのだろう。

 二人は早速作業の準備に取り掛かった。
 由桔也は宛先の書かれたリストをテーブルの上に用意し、箱から取り出した封筒を重ならないようにひとつずつ並べていった。

 すべての準備が終わると椅子に座り、相棒の筆ペンを利き腕の傍らに置く。

「宛名を書くところを、見ていてもいいですか?」
「そう言うと思ってた。ほら、隣においで」

 私利私欲丸出しの発言にもかかわらず、由桔也は快く了承してくれた。
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