拝啓、愛しのパイロット様
「うー。わかりました!」
観念して筆ペンを受け取った小町は、由桔也と場所を交代した。
椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばして大きく深呼吸してから封筒を一枚自分の手前に引き寄せる。
封筒に書くのは、自分の名前と住所だ。
宛先リストの中には、小町の名前も含まれている。
もし失敗しても、自分で自分の招待状を受け取るのなら書き損じでも気にならない。
なにより、自分の名前がこの世で一番書き慣れている。
(よしっ!)
小町は意を決して筆ペンを動かしていった。
由桔也と同じスピードとはいかないが、ひと文字ひと文字丁寧に書こうと心がける。
たっぷり五分はかかっただろうか。最後のひと字を書き終えると、とめていた息を吐きだす。
「はあっ!緊張したあ!」
「よく書けてるんじゃないか?いい字だ」
「ありがとうございます」
正直に言えば少し失敗してしまった部分もあるが、まずまずの出来には違いない。
たとえお世辞だとしても、由桔也に褒められて悪い気はしなかった。
「なあ、これもらっていいか?」
「ダメですよ!」
強い口調で断ると、由桔也はいかにも不満げに口を尖らせた。
「なんでだよ」
「下手だからです!」
由桔也のような美筆ならともかく、小町はその辺にいる素人だ。
わざわざ手もとに置いて眺めたいものでもあるまいし、由桔也に渡すわけにはいかない。
「別に下手じゃないけどな」
由桔也はそう呟きながら、テーブルの上の封筒を手にとった。