拝啓、愛しのパイロット様

「ダメなものダメです!」

 どさくさに紛れて、どこかに隠されてはたまらない。

 封筒を返してもらおうと椅子から立ち上がり手を伸ばすと、由桔也は小町が届かない位置までひょいと腕を上げる。

「もうっ!ひどいですよ!返してください!」
「どうしようかな?」

 何度訴えても、由桔也はすっとぼけながら意地悪く笑うばかりで、一向に封筒を返そうとしない。

「もうっ!」

 ムキになった小町が由桔也のシャツを引っ掴み、無理やり手紙を取り返そうとしたそのとき。

「小町」

 耳もとで名前を呼ばれハッと我に返ったときには、もう遅かった。

(あ……)

 思いのほか、由桔也の顔がすぐそばに迫っていたことに気づいて身体が強張る。

 睫毛の一本一本までつぶさに観察できる距離でふたりはただ見つめ合っていた。
 まるで、これから口づけを交わす恋人同士のようだ。

「そんな顔するなよ」
「え?」
「とめられなくなるだろう?」

 真夏を思わせる熱い眼差しに、いつもの飄々とした様子と異なる切羽詰まったものを感じて、ぶわっと体温が上がるのがわかった。

 その気になれば、たやすく唇を重ねられるのに、由桔也はそれ以上先に進もうとしなかった。

 やがて、左腕を下ろすと、持っていた封筒を小町に差し出す。

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