拝啓、愛しのパイロット様
「知ってるか?機内エンターテイメントやスマホがなかった昔は、機内での暇つぶしに手紙を書く人も多かったそうだ」
「へえ。そうなんですか」
たしかに長時間のフライトを退屈せず過ごすのは難しい。今よりも娯楽の少なかった時代なら、なおさらだ。
「大切な誰かに向けて文字を綴りたいっていう気持ちは、昔も今も変わらないんだな」
「わかる気がします」
なにを伝えようかと、相手の表情をひたすら思い浮かべる時間は唯一無二だ。
手紙という手段を介しているからこそ、直接伝えられる言葉よりも重みがあって、読み返すと余計に愛おしさがあふれてくる。
「なあ、これから先も一緒にいてくれないか?」
「え?」
由桔也はそう言うと、小町の左手を取り、片膝を床につけてひざまづいた。
「俺と結婚してほしい」
突然のプロポーズに小町はただ圧倒され、由桔也の瞳を見つめるばかりだった。
つい一年前まで恋愛不信だった自分がプロポーズされるなんて、こんな未来があり得るのか?
「小町を愛してる。この先もずっと永遠に」
返事を促される代わりに変わらぬ愛を誓われ、目尻に涙が浮かんでくる。
空には満点の星空の代わりに、沢山の飛行機が夜空に瞬いている。大粒のダイヤモンドよりも眩しい輝きだ。
「はい」
小町は涙ぐみながら、由桔也の想いをしかと受け取った。
きっと小町の気持ちも、あの手紙の書きだしと同じで、この先も変わることはない。
【拝啓、愛しのパイロット様――】
おしまい


