拝啓、愛しのパイロット様

【こちらはいつでも平気です。由桔也さんに合わせますから】

 どちらかといえば自分の方が細かい時間の融通が利きやすい。彼のスケジュールに合わせた方がお互いに間違いがないだろう。
 そう思ってメッセージを送り返すと、すぐに応答があった。

【じゃあ、金曜の夜に。楽しみにしてる】

 たとえ社交辞令だとしても、さりげなく添えられた一文には、ふっと心が和む。
 スマホをサイドテーブルに置いた小町は、天井を見上げながら物思いに耽り始めた。

(男性とふたりきりで出かけるなんていつ振りだろう)

 二年ほど前に恋人と別れてから、ずっと脇目も振らずに、仕事に邁進してきた。
 そのおかげで、顧客から顔を覚えてもらい、だんだん売上ノルマも達成できるようになった反面、男性とは縁遠くなっている。

(まあ、でも。恋人がいなくて困らなかったもんな)

 趣味の文房具店巡りも誰にも気兼ねなくできるし、恋人に振り回されるよりも、ひとりの方が気楽でいいのはたしかだ。
 自由気ままなおひとり様を謳歌している小町でも、由桔也のような極上の男性と出かけるのは心が躍る。

(ちょっと楽しみかも)

 いつものルーティンから外れた彼との約束は、小町に小さな変化をもたらした。

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