拝啓、愛しのパイロット様

 ◇

 祖母と文房具を買いに行ったあの日から十八年後。
 二十八歳となった小町は、とあるオフィスビルの八階にある廊下を歩いていた。

「小町さん!」

 後輩の乾菜波(いぬいななみ)から話しかけられ、ゆっくり後ろを振り返る。

「買いました!?『八星(はちぼし)鉛筆』の新しいボールペン!」
「買ったに決まってるじゃん。ほら、この通り」

 小町はふふんと得意げに答えると、早速肩にぶら下げたベージュのトートバッグからライバルメーカーの新作ボールペン、全五色を取り出し、扇形に広げてみせた。
 昨日の仕事帰り、最寄りの文房具店をはしごし、やっとの思いで入手した品々だ。
 SNSでバズったこともあり、どこも品薄で手に入れるのに苦労したが、その分満足感もひとしおである。

「さっすが小町さん!もう使いました?」
「うん。やっぱり八星鉛筆のボールペンはさすがだね。ゲルインクの乾きが抜群で、書き心地もとっても滑らかなの。バズるだけあるよね」

 八星鉛筆は誰もが知る老舗の文房具メーカーだ。
 もともとは鉛筆を主としたメーカーだったが、今では鉛筆以外の文房具全般も手広く扱っている。
 長年のノウハウがしっかりと生かされた製品作りには、ライバルといえども拍手を贈りたい。
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