あなたに友達以上の関係は望まない(はずだった)。
けれど、北ヶ瀬さんが海外に行ってしまうと聞いた途端、私の中に残ったのはたった一つの本心だけだった。
「……え?」
「私も一緒にいきたい。北ヶ瀬さんと、離れたくない……っ」
もう会えなくなる。
そう思ったときに出てきた言葉は、私の本音だった。
頭の中でいろんなことを考えるよりも先に、その言葉が先走っていた。
ふと、いつか里英の家で聞いた言葉が脳裏に鮮明に蘇った。
『どうして里英はさ、今の旦那さんと結婚しようって思ったの?』
『え、何よいきなり。一生独身決め込もうとしてる人にそんなこと教えたくないんだけど』
『いいじゃん!減るもんじゃないんだし教えてよ!だってさ?里英って教師としてバリバリ働いてたでしょ?お金だって別に困ってなかったし、絶対独身時代のほうが自由があったはずなのに、それなのにどうして結婚に踏み込んだの?』
『うーん、そうだなぁ。まぁいろいろあったけど、一番は手放したくなかったからかも』
『手放したくない?独占欲ってこと?』
『独占欲っていうか、この先自分の人生から彼がいなくなる怖さのほうが、ずっと大きくなっちゃったんだよね』
あの時はまったく理解できなかったその感情が、今なら少しだけ分かる気がする。
どんな不安や恐怖を抱えていても、それを上回るくらい北ヶ瀬さんともっと一緒にいたいと思った。それしか残らなかった。
「あ、あの……和泉さん?」
「来年ですよね、海外に行くの。私も一緒について行かせてください。来年だったら今のプロジェクトもちょうど終わるころだし、仕事だって区切りがつくはずです。だから──……置いて行かないで」
私を離そうした北ヶ瀬さんを、今度は私が強く抱きしめた。
初めて出会って、「北ヶ瀬です」と彼が名乗ったときは、正直ここまで仲が深まるとは思っていなかった。
こんなに格好よくて、爽やかで、話をすればユーモアに溢れている面白い人。
今まで触れたことのなかった優しさや気遣いに、何度感動させられただろう。
私がピンチのときは、いつだって隣に彼がいた。
困ったことがあれば一番に飛んできてくれた。
涙を流したときは、そっとお腹を満たしてくれた。
これからも、そんな彼と一緒にいたい。
それ以外のことは、北ヶ瀬さんと一緒に考えていけばいいんだ。