恋を知らないふりする君へ

恋なんてしたくない

「おーい魅憂!ゲーセン行こーぜ!」
「あーごめん今日先約ぅ~」
「なんだよ~・・・じゃあ来週は絶対来いよ!」
「はいは~い」
いつも通りの軽い会話。
私の心を満たしてくれる、つまらなくてくだらない会話だ。
「・・・断っていいの?」
「だって先に約束したし」
そう問いかけてくるのは、私の大親友(一方的な認識)の氷堂(ひどう)碧李(あおり)
いつも机に突っ伏している、気だるげで大型犬のような男の子だ。
改めて私は桜庭(さくらば)魅憂(みう)、高1。
クラスに一人くらいの割合でいる、いわゆる『男子とばっか一緒にいる女子』である。
可愛いものはあまり好きじゃないし、恋愛も興味ないし、サバサバしてる男子のほうが付き合いやすいんだ。
「魅憂さ、俺とばっか一緒に居たら友達なくなるよ」
「なーに言ってんの。心優しい魅憂ちゃんが、大切な親友を見捨てるわけがないでしょう」
「心優しい・・・」
「おい引くな。事実なんだから」
胸を張って言うと、今も机に突っ伏している碧李が考え込み始めた。
う~ん、私が心優しくないのは分かってるよ、自分が一番。
でも碧李の言うとおり、彼とばっかり一緒にいると友達がいなくなるのも事実だ。
俗にいう『一匹狼』である彼はクラスどころか男子の輪にも馴染めず・・・いや、訂正。
馴染もうとせず、彼と仲が良い私は、他の男子に心配されることも多い。
『あいつ、不良らしいから近づくと危ないぞ』『喧嘩してるとこ見てる奴いたんだって』『女でも関係なく殴ってくるかもしれないから、気を付けろよ』
みんな心配してくれるのは分かるけど、碧李を悪く言われるのがどうしても気に食わず。
私はその子たちを縁を切ったのだ。
つまりは、その子たちが離れて行ったのではなく、私が離れただけ。
まぁ、そう言うと碧李は、罪悪感で死んじゃうから、言うわけがないんだけども。
「んで、どうしたの。最近腹を割って話してないから、寂しくなっちゃった?」
「・・・違う」
揶揄うようにその柔らかい癖っ毛を撫でると、碧李は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「ごめんごめん、飴あげるから機嫌直して」
「・・・何味?」
「レモン」
「・・・許す」
私から飴を受け取った碧李は、すぐに口の中に放り込んで、ころころと転がり出した。
「・・・魅憂は俺のことなんでも知ってるよね」
モゴモゴしながら話す碧李が可愛くて笑ってしまったけど、また拗ねられたら困るので、すぐに笑いを収める。
「そりゃあね。碧李のこと一番知ってるのは私ですから」
いつの間にか、みんな帰ってしまった。
それを待っていたかのように、碧李が身を起こす。
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