夜と最後の夏休み

11.緑陰

「矢崎詩音……だっけ」

「……コンニチハ」


 夜の家の前で田崎ほのかと出会ってしまった。言わなきゃ。謝らなきゃ。


「じゃあさようなら」

「え、ちょ」


 田崎ほのかは早口でまくし立てると夜の家のインターホンを押した。


「あら、ほのかちゃんと詩音ちゃん。ごめんなさいね。夜はさっきでかけたところなの」


 出てきた夜のお母さんはそう言って微笑む。その顔が夜にそっくりだ。

 夜は町外れのプラネタリウムに出かけていて、今日はいつ帰るかわからないらしい。詩音と田崎ほのかは夜の家の前で顔を見合わせた。


「算数と理科なら、しお……私、得意だから教えられるよ」

「いらない。別に苦手じゃないもの」


 田崎ほのかはそう言ってしお……私を睨んだ。でもなぜか、腹は立たなかった。


「そっか。そういうしたたかなの、嫌いじゃないよ」


 ちょっと強がり。でも半分くらいは本音。

 田崎ほのかはポカンとした顔で私を見ていた。


「な、なにそれ」

「ねえ、一緒に公園行かない? 私、あなたに謝らなきゃいけないんだ」


 そう言うと田崎ほのかはちょっと眉間にしわを寄せてから頷いた。私は笑って、近くの公園を目指した。



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