私が好きになったのはどっちなの?
 私はなにも言っていないけど、あれは間違いなんかじゃない。
 確かに樹先生と静香さんだった。
 視界がクリアになったかと思ったら、エレベーターの扉はもう閉まっていて、ふたりの姿も消えていた。
「まるで恋人みたい……」
 思考をそのまま言葉にしていたみたいで、蓮先生が否定するように言う。
「ただ一緒にいるのが恋人なら、俺たちも恋人ということになるけど」
 蓮先生が言わんとすることはわかる。
 私のように酔い潰れたからただ泊まったとでも言いたいのだろう。
 ふたりの姿を見せなくするために私の目を塞ぐなんて、優しい蓮先生らしい。
「でも……樹先生、静香さんに優しく笑ってましたよ」
 あんな笑顔は見たことがない。
 考えてみると、樹先生、釣りの時も静香さんに構ってた。静香さんも樹先生のことを語る目が楽しそうだったし。
 百歩譲って今は恋人じゃないとしても、近いうちにふたりはそうなるだろう。
 こんな衝撃的なシーンを見たのに、私は全然落ち込んでいない。
 そのことにショックを受けていた。
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