私が好きになったのはどっちなの?
 単に名前を言い間違えただけかもしれない。
 そう。これはレッスン。
 彼女は俺を樹と思って予行練習をしただけ。
 不意に彼女が俺に寄りかかってきて、しっかりと抱きかかえる。
「花梨ちゃん?」
 いつもの自分に戻って呼びかけるが、彼女の目は閉じたまま。
「……寝てる」
 お酒も飲んだし、睡魔には勝てなかったか。
 だが、それでいい。
 もし起きていたら、彼女にどんな顔をしていいかわからなかったから。
 俺の気持ちを彼女に知られるのが怖かった。
 今は普段通りに振る舞う自信がない。
 花梨ちゃんを俺のベッドに寝かせると、布団をかけて、その頭をそっと撫でた。
「おやすみ」
 願わくはキスは夢だったのだと思ってほしい。
 彼女の唇に目をやると、ギュッと唇を噛みながら寝室を出て、頭を冷やすためにシャワーを浴びにいった。

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