私が好きになったのはどっちなの?
「え? でも……」
 静香さんが困惑しながら樹先生に目を向けると、彼は表情を変えることなく私を見据えた。
 ひょっとすると芝居だとバレているのかもしれない。
「水森さん、今すぐ成田に行った方がいい。蓮はもう戻ってこないから」
 樹先生の言葉に動揺せずにはいられなかった。
「え? 一週間不在にするのでは?」
 師長の話と違う。もう戻ってこないって……なに?
「予定が変わった」
「う……そ」
 師長が一週間と言っていたし、担当患者もたくさんいるから、また戻ってくるとたかを括っていたのだ。
「十一時の飛行機だ。今行けばまだ蓮に会える。成田に行け」
「でも、私は……」
 蓮先生の身内でもなければ、恋人でもない。
「蓮が好きなんだろ? もう会えなくなってもいいのか?」
 樹先生に厳しい口調で問われ、思わず本音が漏れる。
「……よくない」
 全然よくない。
 あまりに狼狽えていて、自分の気持を隠すこともできなかった。
 人の気持には無関心に見える樹先生だけど、私の蓮先生への気持ちには気づいていたようだ。
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