俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
 ――翌日の昼からは美波にも病人食が出されるようになった。

「では、一時間ほどあとに食器を下げにきます」

「わかりました。あの……」

 美波は恐る恐る配膳係に声をかけた。

「昨日隣で患者さんと看護師さんが揉めているのを聞いちゃって……。何があったんですか」


「ああ、高橋君ね」

 配膳係は溜め息を吐くと、この部屋と隣を遮る壁を見つめた。

「もう結構有名になっちゃっているものね。隠しておいてもそのうちバレることだし。あなた、サッカーは好き?」

「えっ、すみません。全然知らなくて」

「そう。私もよくわからないんだけど、あの子K大学のスポーツ奨学生だったみたい。才能があってプロのリーグへ内定が決まっていたそうよ」

 ところが、一ヶ月前練習場からリムジンバスで帰宅する際、玉突き事故に巻き込まれ、両目を失明。更に右足を骨折したのだという。

「ニュースを検索すればすぐに出てくると思うわ」

 そのニュースなら美波も覚えていた。四名が死亡し二十人が重軽傷の大事故だったはずだ。まさか、隣の彼が被害者の一人だったとは。

「失明……右足……」

 おまけにどちらもサッカー選手には致命的な怪我ではないか。

「生きていただけでも儲けものって事故だったらしいけど、本人はそうは思えないわよねえ。よりによって一番肝心な時期に」

「まさか、もうサッカーができなくなったんですか」

「そこまでは私も知らないわ。知っていてもさすがに教えられないし」

 少なくとも現段階でプロになるのは難しいのでは……と配膳係は語った。
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