俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
 病室のドアが開いているのか、美波の病室にまで二人、いや三人の遣り取りが届く。

 会話の内容から察するに患者と配膳係、そして看護師か。

 配膳係が専用の食事を給仕し、看護師が患者の彼に食べさせようとして、拒絶されたのはわかった。

 しかし、なぜ食事を取るのが嫌なのか。入院中の数少ない楽しみだろうに。

 よほど苛立っているのか、彼はもう一度「帰れ!」と叫んだ。

「介助なんて必要ない!」

「でも翔君、あなたは目が見えなくて――」

 今度は何かがボスンと壁に当たる音がした。枕を投げたが当たらなかったようだ。

「手術も必要ない! サッカー選手になれないなら、目が見えてもなんの意味もないじゃないか!」

「わかったわ……」

 看護師が諦めたように呟く。

「とりあえず食事は片付けておきます。お腹が空いたらナースコールを鳴らしてね」

 美波は心の中で呆然と看護師のセリフを繰り返した。

(目が、見えない……)

 なるほど、だから介助が必要だったのか。確かに、若者には抵抗があるのかもしれない。

 とはいえ、食べなければ体力が回復せず、治るものも治らない。なのに、なぜ破れかぶれになっているのだろう。
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