俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
 前日あらかじめ渡されていた資料で、記憶の彼と同姓同名の、「高橋翔」という転職組の社員が、今回のプロジェクトに参加するとは知っていた。

 だが、高橋翔とは比較的よくある名前だし、まさか彼であるはずがないと思い込んでいたのだ。

 呆然とする美波をよそに翔の姿を確認した上座の社長が、満面の笑みを浮かべて彼を出迎える。

「大丈夫。ちょうど今始まったところだよ。せっかくだから君から紹介しようか。こちらは高橋君。先日マーケティング部に入ったばかりだ」

 高橋という名前を聞いて、メンバーの何人かが「ああ例の」と頷く。

「社長がご自分でヘッドハンティングされたんですよね」

「前の勤め先ってメーカー世界最大手のヴィクトリー日本支部なんですよね。すごいな」

「そこでとんでもない営業成績を叩き出して、マーケティング部に抜擢されたとか……」

 社長はウンウンと頷いた。

「で、その後僕がいただいちゃったわけだ。今回のプロジェクトはできるだけ若手に任せたいと思っているからね。マーケティング部は彼を中心に動いてもらうことになると思う」

 青年が――翔が会議室をぐるりと見回す。

「ただ今紹介していただいた高橋翔です。趣味は仕事とサッカー観戦。たまに自分でも遊びでやっています」

「おっ、サッカーファンなんだ。ポジションは?」

 翔は唇の端を上げて不敵は笑みを浮かべた。

「もちろんセンターフォワードですよ。やっぱり男ならゴールを決めなくちゃ。もちろん、このプロジェクトでもそうするつもりです」

「言うね~!」

「いや、それくらい意気じゃないと。僕たちも気合いを入れましょう」

 盛り上げるのが得意なのだろう。翔を中心に皆が湧く中で、美波は一人感慨に耽った。

(サッカー……)
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