俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
『大丈夫ですか?』

『絶対に行かせないから』

『痛いところはない?』

 その一言一言が傷付いた心にゆっくりと染み込んで、癒やし、気が付いたら立ち上がる力を取り戻していたと。

「ちょっと前これからどうすればいいのかわからないし、サッカー以外に俺に何ができるのかもわからない……そう愚痴ったことがあっただろう」

「う、うん……」

「その時お前にお前は将来何をやりたいって聞きもしたただろう」

「そ、そうだったっけ?」

「……ナツ、お前自分の発言くらい覚えておけよ」

 美波は翔の言葉はほとんど覚えていた。だが、自分が言ったことは覚えていない。なぜなら、己を好きになれないからだ。

 脳裏に何度も繰り返し浴びせかけられてきた文句が蘇る。

『どうして茉莉はできるのにあなたはできないの』

『あの子は美人なのにねえ』


「……」

 美波は膝の上の拳をギュッと握り締めた。

「……ごめんね。私記憶力なくて」

「謝ることないけどさ。とにかく、お前はその時こう答えたんだよ」

 翔は見えない目を美波に向けた。

『――私、翔君みたいに大きな夢を持ったことがないの。でも、やってみたいことは一つだけあるかな』

 それがなんだと翔が尋ねると、美波は『海が見たい』と呟いたのだという。

『知っていた? 翔君の病室からも海が見えるの。青灰色の静かな海……。あの海を翔君と一緒に見に行ってみたい。砂浜を歩いて、波の音を聞いて……』

 翔は溜め息を吐いた。

「俺もそうしたいと思った」

 同時に美波が美しいと感じる海の色が、自分の見えない世界と同じ青灰色だと聞いて、もうその色が恐ろしくなくなったのだという。

「だから、見えるようになりたいと思った」
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