俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
 ――会食会場の会席料理店は、八人がけテーブルのある個室二室を繋げ、十六人部屋にしたところだった。会席料理店といってもモダンな造りで、美波でも比較的馴染みやすい雰囲気である。

 とはいえ、今日は専門店本部の代表として参加するのだ。それだけでもう緊張しているのに、開始三〇分前手渡された席次表の配置が、なんと翔の隣だと聞いてぎょっとした。

「それはもう変えられないんですか?」

「ちょっと難しいね。何か問題があるんですか?」

 幹事に聞き返されて慌てて「何もありません」と返す。

(大丈夫。大丈夫よ。前ちゃんとナツじゃないって否定したし、あれから翔君からの接触もないし)

 心を何とか落ち着かせ、座椅子に腰を下ろす。隣にはもう翔が腰掛けていた。

 驚いたように切れ長の目を見開く。

「入江さん? どうしてここに」

「三井部長がトラブル対応に出て、代わりに出席することになったんです。私では力不足かもしれませんがよろしくお願いします」

 その間にも今日の会食の出席者が続々と個室にやって来た。

 ほとんどが美波の見覚えのある顔だったが、最後に座敷に上がった女性の声を聞いて、息を呑んで彼女に目を向けた。翔も驚いたように美波に続いて同じ方向を見る。

 淡い色の女性らしいスーツのよく似合う、人目を引く華やかな美人だった。柔らかそうな髪は緩やかに巻かれている。

「失礼します。ユニバースエージェンシーの者です」

「ああ、前田さんの次の担当の……」

「入江茉莉と申します。本日はよろしくお願いします」

「えっ、入江?」

 幹事が席次表を渡しつつ目を瞬かせる。

「どうしました?」

「うちにも入江という社員がおりまして。それに、声がよく似ていているんですよ。いや、びっくりしたな」

「そんな方がいるんですか。どちらの方で――」

 入江茉莉の――姉が室内をぐるりと見回し、まず翔を目に留めてわずかに目を見開く。次いでその隣にいる美波を見てはっとした。

「美波……?」
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