俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
 てっきりプロジェクトについての質問かと思い、美波は「なんでしょう」と何気なく尋ねた。

「詳しい話なら三井部長の方がいいと思うので、今度マーケティング部と専門店営業本部で話し合う機会を作りましょうか?」

「いいや、入江さんにしか答えられないことだ」

 翔はゆっくりと身を翻すと、真っ直ぐに美波を見つめた。同時に一陣の風が並木を駆け抜け、青々とした葉を散らし、美波のボブヘアを舞上げる。

「――俺は十年前大怪我で入院していたことがあるんだ。玉突き事故に巻き込まれて、両目と右足をやられた」

「……っ」

 心臓が跳ね上がった。ドクンドクンと早鐘を打ち始める。

「特に目の怪我がひどくて、どちらも失明したんだ。角膜移植で視力は回復するけど、サッカー選手になる夢は諦めろと言われて、一時期結構……かなり荒れてた。俺、昔地元ではそれなりに有名な選手だったんだ」

「そう、だったんですか。大変でしたね」

 そう答えるのがやっとだった。

「もし、あの時彼女に……ナツに出会わなければ、俺は今ここにいなかったと思う。目が見えない俺をずっと励ましてくれた子なんだ。でも、手術が終わったらもういなくなっていた」

「……」

「入江さん」

 翔は美波との距離を詰めた。美波は小柄な方なので、翔を見上げる姿勢になってしまう。

「俺はナツをずっと探していた。だけど、どれだけ探しても見つけられなかった。……ナツという名前は偽名だったみたいだな」

 残る手がかりは記憶に残るナツの声だけ。

「入江さんの声はナツにそっくりなんだ。……君はナツなのか? それとも、君の姉妹にナツって人はいないか?」

「……っ」

 脳裏に「いつか二人で見に行こうね」と約束した、あの夏の日の海の煌めきが浮かんだ――。
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